僕の生存日記   第8話:思い出という名の媚薬

 僕は『川野辺 葉乃』。割とツイテナイ高校生活送ってます。
 大体元凶は幼馴染の『千羽 緋路』だったり……あとは、怖い顔した先輩の『神成 躍人』だったり……かわいい子大好きなイケメンの『今池 輝也』だったりする時もあるんだけど……。
 前回は、僕の好きな『黒井 姫』さんとデートなんて奇跡が起きたんだけど、それもまぁ、そんなやつらに囲まれてたら、無事に終わるわけなんてなかったよね……ハハ……。

 ――黒井さんとのデートからおよそ1週間。
 デートの最後に起こった事件で、黒井さんとなんとなく気まずくなってしまい……あれからあまり上手く話せていなかった。
 まったく話せていないわけではない。ただ、なんだかギクシャクしてしまっているのだ。
 本当に、最悪だった。
 もちろん、最後に僕の身にあんなことが起こったのも最悪だったし、黒井さんと話せていないことも最悪だ。くそ、千羽のやつめ……!
 結局、今日も上手く話せず仕舞いで。
 あっという間に放課後になってしまった。

「…………帰るか……」
 ため息を吐いて、僕は立ち上がった。
 ――と、そこへ。
「葉乃――――――――!」
 また面倒くさい男がやって来た。千羽だ。
 僕は何も言わずに教室を出ようとした。
「って、つれないな、葉乃ー!」
 そうはさせまいと、千羽が僕の前に立ち塞がる。
「帰るんですけど」
「つ、冷たい……!」
「そりゃぁ冷たくもなるだろ。おまえな、おまえのせいで、あんなわけのわからんことに――!」
 相変わらずなノリの千羽に腹が立ってしまい、つい文句を言ってしまった。本当は、どこまでも無視してやろうかなんて思ってたのだけど。
「だ、だから、あれは俺もショックだったし、悪いと思って! 謝りに来たんだよ! ほら!」
 そう言って、千羽は箱を取り出した。
 そしてそれを開け、中を見せつける。中には、立派なケーキが入っていた。
「……これ、どうしたんだ?」
 思わず尋ねる。
「ふっふっふっ。俺の手作りさ!」
「本当に無駄に器用だな」
 これでも感心して、そう言った。まるで売り物だ。
 ――しかし。
「いらない」
「なんでだよ!?」
「嫌な予感しかしない。このケーキ、なんか変なモン入れてるんじゃないのか……?」
 こいつに裏がないわけない。この間の出来事で、そう確信した。
「入れてない! 入れてないぞ!」
 慌ててそう言う千羽だが、疑いの念は晴れない。
「本当に?」
 僕は念を押してそう尋ねた。
 千羽は激しく首を縦に振り、
「何も入れてないって! ちゃんとした普通のケーキだから!」
 そう言った。さらに、
「……っていうか、謝りたくて持ってきたのに、疑われるなんて……葉乃ってば、ひどい」
 と、泣き真似を始めた。
 正直イラッとしたが、あまり疑うのも申し訳ない。もう1度信じてやるかと、ため息を吐いた。
「悪かった。じゃあ、一緒に食べようか? 今、ここで?」
「おう! ちゃんとフォークとナイフも持ってきたぞ!」
 そう言って、千羽がにぃっと笑った。