エンタメクラブ   Act.1:着ぐるみ、現る

 昼休み。私立竜神学園(りゅうじんがくえん)高等部1年E組の教室の前での1コマ。
「木谷 笑(きたに えむ)、発見!!」
 私――『木谷 笑』は、とつぜん見ず知らずの少女にそう呼ばれ、面食らった(いろんな意味で……)。
 ――なンなの、この人は?
 私とさほど変わらない低い身長……。顔の様子はよく窺えないが、どことなく私と似た小さな鼻と口が覗く……。そして、私が1番気になっている……このキバツなファッション!!
 というか、ファッションとか、そんな問題じゃない。
 ――なぜ猫の着ぐるみ(顔のところだけが出ている)なんて着ているの? お、おかしい……。絶対おかしーよ、この人っっ!!
 私の視線はそのフカシギな姿に釘付けとなっていた。
 その人は私のそれに気付いたらしく、笑いながら言った。
「あ、このカッコ? だって私、この学園の大学部に通ってんだもん。大学部は私服でしょ」
 ――あぁなるほどー……って、そういう問題ではない!
 たしかに。この、見た目中学生程度の身長&童顔な少女が、大学部に通っているっていうのも驚きだけど……。
「そーじゃなくて。なんっっで、着ぐるみなんですか? いくら私服でも、着ぐるみって……」
 私はおもわずツッコんでいた。
 こういった変な人とは関わり合いにならないほうがいいなんてこと、そんなことはわかっている。わかっているんだけども……つい、私のツッコミ精神が働いてしまう。
 着ぐるみおネーさん(勝手に命名)、今度はとつぜん真顔になって言った。
「おっと、自己紹介が遅れてしまいました。私は『龍神 絵夢(たつがみ えむ)』。この学園の大学部の学生であり、んーまぁ、理事長なんてのもやってたりします。あ、ちなみに着ぐるみは気にしなくていいよ。ただの趣味だから」
「う……うぇえぇ――――――っっ!?」
 ――ハイ――――ッ!? どーゆーことだ!?
 り……理事長……!? この学園の理事長が、いったい、私になんの用があるというの!?
 いや、それ以前に、こんな人が本当に理事長なのか――――!?

 私がこの竜神学園に通い出したのは、だいたい1ヶ月前の4月のこと。
 入学式の日、高等部の校庭の桜は見事に満開だった。真っ青な空に、桜のピンクが綺麗に溶け込んでいたのをよく覚えている。
 その日も、私はあの人を見つけることができた。
 小学校、中学校と同じ学校だった……そして、高校も同じとなる彼――『森 裕樹(もり ひろき)』。
 というか。私がこの学園に通うきっかけの1つとなったのがそれ。
 ――今までずっと近くにいた彼と離れたくなかったから……。
 とか言って、べつにそんなに仲がいいわけでも悪いわけでもないんだけど、普通に話をする程度で。そう、ただの私の片想い……。
 それでも……やっぱり傍にいたい。
 まあ、それはあくまでもきっかけの1つであって、この学園に通うきっかけとなった別の理由とは――
 なんか面白そうだから!!(どきっぱり!)
 なんて言ったら、親とかに怒られちゃいそうだけど、でもそれが事実だから。
 この学園のことは前々から、噂をよく耳にしていた。
 妙な事件が起きたとしたら、だいたいこの学園が中心となっている。
 事件と言っても、盗難事件があったとか、殺人事件があったとか、そういった事件ではない。
 この学園の周りで起きている事件とは……たとえば、謎の飛行物体が目撃されたとか、学園の中心から不思議な光が空に向かって伸びていたとか、そんな不思議なものである。
 普通の学校に通っていたんじゃ絶対に体験できないようなこと。
 そんなことが体験できるんじゃないかと思ったんだ。
 それで、なんかちょっとしたファンタジーみたいだけど、でも、もしもそんな体験ができたら、きっと面白いんだろ〜な〜……なんて思ってここに入学した(もちろん、進学率や就職率がそれなりにイイ! っていうのもあるけどね)。
 そして、その事件の中心には、いつも謎の人物が存在している……と言われている。

 ――まさか、もしかして、コイツか……!? 学生で理事長、いや、それ以上にこの着ぐるみとか……そうとう謎な人物だ。
 私は、自分の目の前に立っている着ぐるみ理事長(改名)をじっと見つめた。
「イヤン! そんなに見つめないで〜☆」
 そう言って、着ぐるみ理事長は体をくねらせた。
 ――キモイっつーの(汗)!!
 私が引いていると、着ぐるみ理事長、次の瞬間にはとつぜん怒り出して、
「おっまえ、ノリ悪いゾ!!」
 そう言いながら、私の腕を引っ張り……踊り出した。
「って、私も踊るんかい!!」
 私は慌ててその手を振り解いた。
 ――こんなところでそんな恥ずかしい真似ができるか――――っっ!!
 そんな私の様子を見て、着ぐるみ理事長はニヤリと笑みを浮かべた。
「な……なんですか?」
 なんだかムカッとしてきて、私は訊き返した。
 ――もーヤダよ、この人。ワケわかんない……。
「やっと本性現したな」
「はぁ?」
 着ぐるみ理事長のその言葉に、私は間の抜けた声を漏らした。
 そして着ぐるみ理事長は、そんな私の様子を満足そうに見ながら言った。
「まだ、あまり馴染めてなかったんでしょ? この学園に」
「……え?」
「自分の本当の姿を見せたほうがいいよ。そのほうが、みんな馴染みやすいんじゃないかな? おとなしそうな見た目とは違って、キミ、本当は面白いことが大好きでしょ。でも、いっつも素直になれないんだねぇ。みんなが面白い話をしてて、その輪に入りたくても入れずに、いつも外から見ているだけ……そんな思いイヤでしょー?」
「……あなたは、なにが言いたいのですか?」
「いやー、ただ……素直になれってことっすよ」
 ――なんなの……? ……なんだか……すべてを見透かされたみたいだ。
 この人が不思議な事件の中心にいつもいるっていうのも……もしかしたら、本当に本当のことかも。
 彼女は不思議な雰囲気がする……。
 今のだって、まるで心を読まれたみたい……。
 ――ん!? え、なに、その表情。え、ちょっと待て!? ……本当に、すべてを読まれてる……!?
「んで、彼が好きなんだね☆」
「ハ、ハイ!?」
 着ぐるみ理事長の視線の先……。ちょうどそこには、彼――森 裕樹がいた。
 自分の席に座り、なにやら本(マンガ?)を読んでいるようだ。
「素直に告白でもしちゃえば〜?」
 からかうように着ぐるみ理事長が言う。
 私は、もう真っ赤になって、
「なっ、なっ、なんてことゆーんですかあぁ!?」
 慌てて着ぐるみ理事長の口を塞ぐ。
 ――つか、本当に何者だよ!?
 そう思いながらも、私はむりやり話を逸らした。――っていうか、もともとこっちが本題なんだから!
「それで、なにをしに私のところに来たんですか!? さっきの……本当の姿を見せろってやつ、それを言いに、わざわざこんなとこまで来てくれたんですか?」
 着ぐるみ理事長が意味深な笑いを漏らした。
 ――なんだかイヤな予感……。
「頼みがあるの!」
 満面の笑顔で着ぐるみ理事長は言った。
「新しい部活を作りたいんだけど、君に部長をやってほしいんだ!!」
「……え??」