エンタメクラブ   Act.2:部員を探せ!

 なんとなく気まずい沈黙が続く。
 ――もしもこれで、明日からフツーに話せなくなったりしたら、どー責任とってくれるんだ――――――っ!? てか、そもそも本題どこいった!?
 そのとき、閉めてあった教室のドアが勢いよく開かれ、それと同時に、大きく元気な声が飛び込んできた。
「あれっ!? 誰もいないかと思ってた! ヒロに木谷さん、なんで残ってるんだ?」
「あ……愁……。な、なんでおまえこそいるんだよ?」
 ――ああ、明らかに動揺してるよ、森……。
 教室に入ってきたのは、クラスメートの『葉山 愁梧(はやま しゅうご)』だった。少し色黒の肌に、髪も瞳も真っ黒で……失礼かもしれない(イヤ、きっと失礼だ)が、印象は全体的に黒っ! そして、彼も中学が同じで、いつからか森の親友をやっている。私もけっこう話したことがあって、好きなゲームの話で盛り上がったりしたこともある。
 葉山は私の隣の席(森が座ったのと反対のほう)に座ると、こっちを向いた。
「俺は忘れ物を取りに来たの。今日は部活なかったから早く帰れたっていうのに、また学校来るハメになっちゃったよ」
 葉山はそう言って笑った。
 ――葉山、そうは言ってるものの……どこか楽しそうに見えるのは私の気のせいだろうか……?
「それで、ヒロと木谷さん……えーっと……こ、この人は?」
 葉山が着ぐるみ理事長を見ながら尋ねてきた。……ちょっと動揺しているのがわかる。
 そりゃそーだ。着ぐるみ理事長は、昨日と同じく、今日も着ぐるみを着ていた。……とはいっても、昨日とは微妙に違い、シャムネコの着ぐるみだったのがミケネコになっていた。
 ――しかし、この格好は絶対引くって!
「ああ、どーもハジメマシテ。私は『龍神 絵夢』と言って、この学園の理事長やってます。あ、着ぐるみのことは気にしないでね☆」
「ええええええぇえぇぇ!?」
 ……葉山はとうぜんの如く大声を上げた。
 着ぐるみ理事長はその声を聞いても、笑顔を崩さず、
「なーんで、笑ちゃんもこの黒い人もそーやって驚きの声を上げるのかなぁ? ヒロ君はべつに驚かなかったぞ!」
「く、『黒い人』って……」
 ――つーか、驚かない森って……。
「だって、黒い人のことよく知らないもん。ってか、誰?」
 素晴らしく失礼な言い方で、着ぐるみ理事長が私達に訊いてきた。
 黒い人――じゃなくって(着ぐるみ理事長が伝染っちゃったよ)、葉山は表情を崩したまま自己紹介を始めた。
「お、俺は『葉山 愁梧』。ヒロの親友です……」
「ふーん。んで、はっちゃんは部活はなにやってるの?」
「は、『はっちゃん』……?」
 ――あいかわらずものすごいネーミングセンスしてるな、着ぐるみ理事長……。
「笑ちゃん、君もね。私のこと『着ぐるみ理事長』なんて呼んでるし」
「って、心を読むなってば――――――っ!!」
「ま、とにかく。なんの部活やってんの?」
 着ぐるみ理事長に訊かれ、はっちゃん――もとい、葉山はさっきよりもテンション低めで答えた。……そりゃ、テンションも下がるわな……。
「…………陸上部……ですけど……」
「……着ぐるみ理事長、さすがにムリだよ。陸上部は大変だもん。とくに、大会があるときなんて、もう……」
 そんな私の話を、着ぐるみ理事長が聞いているハズもなく……。彼女は葉山の肩をぐゎしっ!! と勢いよく掴むと、
「いい人、発見んんっ!」
 そう叫ぶや否や、ドコに持っていたのか入部届の用紙を取り出し、
「ささっ! 書いて書いて!!」
 いつもの強引さで入部届に判を捺させた(というか、ムリヤリ名前を書かせた)。
「ハイ! お1人様、ご案な〜い!!」
「オイ! ムリヤリ書かせるのはやめなさい!」
 私はおもわず止めていた。
 ――森はこの人の行動を気にしていないようだから、止められるのは私しかいない!
「葉山だって、そんなヒマないよね?」
 葉山本人に断らせようと振り向くと、葉山は――
「これって、どんな部活なの?」
 ――って、ええ!? 興味津々!?
 着ぐるみ理事長はぱぁっ! と顔を輝かせると、
「よくぞ訊いてくれましたっっ!! 部活名は『エンターテインメントクラブ』っ!! 自分の趣味を追及していく部です!」
「わざわざそんな部、作らなくても……」
「ん? 笑ちゃん、なにか言った!?」
「いえ、べつにー」
「へー。面白そうだね」
 葉山はそう言って、屈託なく笑った。
 ――ウソ……手応えあり?
「でしょ!? ね! 入部しない!?」
「この部活、2人は入ってるの?」
 葉山は私達に問いかけてきた。
「ま、まぁ……」
「木谷が部長で、俺が副部長やることになった」
「へぇ。ヒロが? そーゆー役を買って出るなんて、珍しいな」
「うるせー」
「そんなワケで、あなたも入部しましょう! ね?」
 再び着ぐるみ理事長が尋ねる。
 葉山は少し考え――
「いいよ。楽しそうだし」
「やった――――!!」
「えぇ――――――!? ほ、ホントにぃ――――っ!?」
 おもわず叫んでしまった。
 ――だって、だって……。
「なんで? 陸上部忙しいんじゃないの?」
 そう訊くと、葉山は笑って、
「そう毎日あるわけじゃないから大丈夫だよ。まあ、大会が近くなってきたら出られなくなっちゃうと思うけど……でも、出られそうなときは出るからさ」
「そう……? はぁ、ありがとう。葉山って、いい人だねぇ」
 私がそう言うと、葉山は赤くなって(って、色黒だからよくはわかんないんだけど)、
「イヤ……ッ! そ、そんなことないよ」
 と照れていた。謙遜することないのにね。
「敵が現れたねぇ」
 とつぜん、着ぐるみ理事長が森にそう言った。
「な……なんの話だよ!?」
 森が言う。
 ――ホント。なんの話だろ?