エンタメクラブ   Act.4:逃亡者

「戻りましたよー」
「おー」
 2人で部室へ戻る。中を覗くと、すでにみんな揃っていた。
「笑ちゃん、おかえりー」
「2人ともお疲れー。で、けっきょくヒロの勝ちだったのか?」
 葉山が尋ねる――が、森はそれには答えず、一直線にある人のもとへ。そして――
「きききききき着ぐるみ――!! おまえ、どこにいたんだー!?」
「はっはっはっはっ。私の勝ちだねぇ」
 勝ち誇って着ぐるみ理事長が言う。
「って、着ぐるみ理事長の勝ち!?」
「マジ!?」
「え?」茜さんが驚いたように着ぐるみ理事長を見た。「私は捕まってから、まだ見つけてないっていう笑ちゃんと着ぐるみ理事長を探してたんですけど。下校のチャイムが鳴るちょっと前に私が休もうと戻ってきたとき、もうここにいましたよね? てっきり捕まって戻ってきたのかと――」
 その言葉に、全員はっとする。
 ――ここにいた?
「おーぅ、いえーす。必殺、盲点!!」
「だああああああああああああ!!」森が唸る。「それは卑怯じゃねーか!?」
「ぜんぜん? だって、高等部の建物内全部って言ったよね。ここにいちゃいけないなんてルールはないもんね〜♪」
 そうかそうか。逃げ出したかと思いきや、着ぐるみ理事長はずっとここにいたわけだ。まさか逃げ場にするとは、誰も思いつかなかったこの部室に。
 ――はああぁぁぁぁ〜。
 みんながみんな、深い溜め息を吐いた。
 着ぐるみ理事長はその様子を満足そうに見て、言った。
「じゃあ、私の好きなことしていいわけだね☆」
「さーさーさーさー! もう下校のチャイム鳴ったよー!」
「そうだな! さっさと帰らねーと!」
「帰りましょー帰りましょー!」
 着ぐるみ理事長がなにか言い出すのを遮って、私達はどたばたと部室から逃げ出した。
「ちょ……! き、貴様らぁぁっ!」
 部室でまだ着ぐるみ理事長が叫んでいたけど、聞こえないフリをした。

「逃ぃ〜がぁ〜すぅ〜かぁ〜」
 生徒用玄関。出ていく扉のすぐそこに、そいつはいた。
 とつぜん妙な雄叫びと共に現れたもんで、おもわず私は叫び声を上げて仰け反る。
「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
「おい! どうやって先回りしたんだよ!?」
 そう。なんとも有り得ないことに、着ぐるみ理事長はもうそこにいた。
 私達4人を行かせまいと、立ち塞がるように。
「そりゃあ、この龍神 絵夢に不可能などありませんから」
 あっさりと言う彼女に、こいつは本当に人間か? とたまに思う……。
「負けたのに逃げるなんてルール違反だ!」
「だ、だって……」
 着ぐるみ理事長のことだもの、きっととんでもないことを言うに違いない。そう、たとえば――
「部活メンバーもっと増やして♪」
 笑顔で。
 ――ほら来たほら来た。
「そんなことだろうと思ったから逃げたんですよ!」
「えー? じゃあ……腹踊り?」
「ごめんなさい。新しいメンバー連れてきます」
 腹踊りよりは幾分かマシだと、みんな声を揃えて答えた(しかし、なぜ腹踊り……?)。
 着ぐるみ理事長は、それをまたも満足そうに眺めると、
「4人ね」
「――へ?」
 ――なにかの聞き間違いだろうか……。
「新メンバー4人増やしてね」
 もう1度繰り返す着ぐるみ理事長。どうやら聞き間違いではないらしい。
「よ、4人……?」
「うん。4人」
 おもわずもう1度だけ聞き直すが、着ぐるみ理事長の返答は変わらず。
 ――って、無茶言うわ!
「いやいやいやいや無理ですよ! そもそもそんなに増やす必要もないじゃないですか!」
「そりゃあメンバーはいるだけいたほうがいいからな! ノルマはそれぞれ1人が1人見つければいいから。で、合計4人ね。見つけられなかった人は、は・ら・お・ど・り!」
 変なポーズを取りながら腹踊りを強調する着ぐるみ理事長。
 ――そ、そんな〜……。
「期限は1週間でね〜」
 ――もう、本当に逃亡したいです……。
 1番の鬼は、森でもなんでもなく、着ぐるみ理事長でした……。