エンタメクラブ   番外編7:エンタメクラブ if編

 昼休み。私立竜神学園高等部1年E組の教室の前での1コマ。
「木谷 笑、発見!!」
 私――木谷 笑は、とつぜん見ず知らずの少年にそう呼ばれ、面食らった。
 ――なンなの、この人は? なぜ猫の着ぐるみなんて着ているの?
 少年は私の視線に気付いたらしく、笑いながら言った。
「あ、このカッコ? だって俺、この学園の大学部に通ってんだもん。大学部は私服でしょ」
 ――そういう問題ではない。たしかに、この見た目中学生程度の身長&童顔な彼が、大学部に通っているっていうのも驚きだけど……。てゆーか、誰!?
「おっと、自己紹介が遅れてしまいました。俺は龍神 絵夢。この学園の大学部の学生であり、んーまぁ、理事長なんてのもやってたりします」
「う……うぇえぇ――――――っっ!?」
 ――り……理事長……!? この学園の理事長が、いったい、私になんの用があるというの!? いや、それ以前に、こんな人が本当に理事長なのか!?
「まだあまり馴染めていなそーな君に一言言いに来たんだよね」
「へ?」
 とつぜん、その命名『着ぐるみ理事長』が、そんなことを言い出した。
「自分の本当の姿を見せたほうがいい。そのほうが、みんな馴染みやすいんじゃないかな? おとなしそうな見た目とは違って本当はおもしろいことが大好きなのに、いっつも素直になれないなんて。いつも外から見てるだけなんて、そんなのイヤじゃん?」
「……あなたは、なにが言いたいのですか?」
「いやー、ただ……素直になれってことだよ。あと――」
 彼は不思議な雰囲気がする……。
 今のだって、なんだかまるで、心を見透かされたみたい。
 ――ん!? え、なに、その表情。え、ちょっと待て!? ……まさか、本当に心を――!?
「でも、好きな人のことまで素直にさせないかなー」
「え?」
 ――なに、どーゆーこと??
「不思議な体験をしたくて、この学園に来たんでしょ? わかってるよ。じゃあ、俺の彼女になればいいと思うわけ!」
「……………………はいぃぃぃぃ――――!?」
 予想外の言葉に、おもわず素っ頓狂な叫び声をあげていた。

「え、え、ちょっと待ってください。なにがどうしてそうなった!? ていうか、そんな話でしたっけ!!??」
 私は混乱している。
「そんな話って? どんな話?」
 着ぐるみ理事長に言われて、いっしゅん我に返る。
 ――『そんな話』って、なんだ?
「まぁ、とにかく。俺の彼女になれば、いろいろ不思議で楽しいことに巻き込んであげるよ」
「だ、だから、どうしてそんなことになっているんですか!? 私たち、初対面ですよね……!?」
 初対面のような、以前会ったことがあるような、なぜかそんな気もするが。
 いや、でも、この学園の理事長のことなんか知る由もない。知ったとしたら、学園のホームページかなにかで見たとか? だったら納得。でもでも、相手はこんなこと言ってきているわけだし、やっぱり会ったことがあるのか?
 脳をぐるぐるフル回転させてこの人のことを思い出そうとする。が、わからない。
「まぁーそうだね。俺が一方的に好意持ったようなもんだし。知るわけないよね」
 ――やっぱり私知らんのかい。というか、なぜ好意を持たれたというのだ。
「でも悪い話じゃないと思うんだけど? どーよ?」
(顔だけ出ているタイプのものだが)着ぐるみで隠れて、表情はイマイチはっきりとわからない。
 でも、微笑っている。バカにしているわけではなく、ただ心底楽しそうに。そんな感じだ。
 ――で、どうすればいいんだ、私! いやいや、私には好きな人がいるし――
「どうしたんだ?」
「どわぁ!?」
 心臓が10cmは跳ね上がったのではないか。想い人である森 裕樹が後ろから話しかけてきたのだ。
「もっ……森……!」
「あー、ヒロ君ね」
 着ぐるみ理事長が彼を見る。
 初対面から『ヒロ君』呼びかい。
「ヒロ君、申し訳ないけど、彼女はもらうからね」
 ぐいっと私の肩を引き寄せ、着ぐるみ理事長はとんでもないことを言った。
「なっ……!?」
「な、な、な、なに言ってるんですかッ!? そんなの、ないですよっ!」
 真っ赤になって否定する。
「ど、どういうことだよ!?」
「わ、私もわかんないよ!」
 森の言葉にそう答える。
 もう、なにがなんだか――
「笑ちゃん」
「――え?」
 肩を抱かれたまま、振り返ると、目の前に着ぐるみ理事長の顔が――
 ――って。
「どわああああああああぁぁぁぁ!!!!????」
 おもわず私は着ぐるみ理事長を突き飛ばしていた。
 ――い、い、今、キ、キs……されそうに…………っ!!!!
「いったーい。笑ちゃん」
「な、なんばしょっとね――――――!!!!」
「笑ちゃんどこの人?」
「なにしようとしてんだおまえ! 木谷、大丈夫か?」
 森が心配して顔を覗き込んでくる。
「うん、なんとか……。ありがとー……」
 さらに真っ赤になりながら、そう答える。
 森が、近い。
 じ――――――――……。
 はっ!
 視線を感じて振り返ると、着ぐるみ理事長がじっとこっちを見ていた。
「まぁ、さすがにね〜。まだちょっと展開早かったよね〜。ま、でも、ガンガン迫っていくんで、ヨロシク!」
「やめてくださいよ! ほんとにもう!」
「だが断る! じゃあ、また来るぞ!」
 そう言って笑いながら、彼は嵐のように去っていった。というか、嵐そのものだった……。
 しかし、なにか忘れているような……。
「いや、そうだ。待って! まったく部活の話してないけど、いいの!?」
 はっと思い出して、着ぐるみ理事長を引き留めようとする。もう姿は見えないけれど。
 ――って、部活? 部活って?
 私、なにかを忘れてる……?
「木谷?」
 ぼーっと考え込む私に、森が不思議そうに声をかけてきた。
「はっ! だ、大丈夫。大丈夫だよ!」
「そうか? なら、いいが……」
「うん。大丈夫」
「そうだ。ところで、今日の部活はなにすんだ?」
「ん? 部活?」
 森までそんなことを言い出した。
「部活って?」
「そりゃ決まってるだろ。エンタメクラブ」
「エンタメクラブ!?」
 当然のように森は言った。
『エンタメクラブ』……!?
 なんだか、とても聞き慣れた響きだ。なんだっけ?

「そーだなぁ……。自分の趣味を追求する……楽しいことをする部活ってことで、『エンターテインメントクラブ』って部活名でどう? 略して『エンタメクラブ』! もっと略して『エンラブ』ってのは?」

 ――あ。
「そうだよ! 部活! エンタメクラブ!」
 頭の中で着ぐるみ理事長の声が反響して、思い出した。
 なんで忘れていたんだろう。こんな大切なこと。
 なんだかんだで大好きなこの部活。森は副部長で、そして私はそのエンタメクラブの部長だ。
 というか、もう1つ重要なことを思い出した。

「着ぐるみ理事長は女でしょーがっ!!!!!!!!」


 ――…………。
 ピピピピ、ピピピピ……。
「はっ……」
 目覚まし時計のアラーム音が部屋に鳴り響く。
 体を起こして時間を確認すると、もう朝の7時だった。
 アラームを止めて、頭を左右に振った。少しだけ頭がはっきりとしてきた。
「なんだか、ヘンな夢を見た気がする…………」
 思い出そうとするが、思い出せない。というか、思い出さなくていい気もしている。
「…………んー……」
 眠い。
 ――……さて、今日も学校へ行きますか。放課後は部活をして、騒がしく過ごそう。
 あ、あと――なんだかわからないけど、イラっとするので着ぐるみ理事長の鳩尾に軽く1発入れようそうしよう。
 そんなことを考えながら、私は大きく伸びをした。


「それは完全なる八つ当たりだよ、笑ちゃーん!」
「逃げるなー!」
 ※あたりまえのように逃げられました。