グローリ・ワーカ   第13章:不安

 その館は、スターダストキャッスル――星屑の城と言うだけあって、とても綺麗な外装をしていた。
 青い屋根のてっぺんには小さな星がちょこんと乗っかっているかわいらしいデザイン。なによりも綺麗なのは、不思議なことに館全体が僅かに青白い光を放っているところだった。
 あまりの美しさに目を奪われ、4人はしばらくの間、扉も開けずにぼーっと突っ立っていた。
「お客さん?」
 ふと声をかけられ、我に返る。
 視線を前に戻すと、スターダストキャッスルのドアが開かれ、そこから1人の少女が顔を覗かせているのが目に入った。
「こんばんは」
「こ、こんばんは……!」
「どうぞお入りくださいな」
 同じくらいだろうか? さほど年齢の変わらないように見える少女が、4人を中へと招き入れた。
「あ、マリーナちゃん。このぬいぐるみ並べといてー」
 4人が館に入ると同時に、奥の扉からローブを纏った少女が姿を現した。手にはぬいぐるみがいっぱい入ったかごを持っている。
 室内を見回すと、棚にはいろいろな動物のぬいぐるみなんかが並べてあり、思っていたよりもファンシーな雰囲気だった。
「あれ、お客さん?」
「うん。来てたんだ」
 マリーナと呼ばれた少女が、マニュアたちをローブの少女の元へと案内する。
 ローブの少女はにっこりと笑うと、
「はじめまして。私はこの店で占いをしている『マリア・クノッソス』です。お名前は?」
 いきなりの自己紹介となった。
「あ、わ、私は『マニュア・ホワイト』。あ、13歳……」
 とつぜん振られ、おどおどとしてしまう。
 3人も続けて、
「『ティル・オレンジ』! 13歳でーす!」
「『アリス・ヘイズル』。13歳です」
「『アルト・クリーム』です。同じく13歳」
「あ、ちょうど、私たちと同じ、ね! 13歳だって、マリーナちゃん」
 マリアが嬉しそうに言う。
「そうね。私は『マリーナ・ナポリ』。この店でバイトをしているの」
 先ほど案内してくれた少女が名乗った。
「さて……」
 全員の自己紹介も終わったところで、マリアが4人の方に向き直った。
「なにを占えばよろしいんでしょうか?」
「え……? えっと、なんだっけ……」
 マニュアが慌てる。
 それにティルが答える前に、
「未来のことでも占いましょうか?」
 マリアの方から言い出した。
「……え!?」
「あ、うん。そうだ、占ってみてー!」
 せっかくだからと、ティルは占ってもらうことにした。アリスもアルトも反論はないようだ。
 マリアはテーブルの上に水晶を取り出すと、それに手を翳し、ゆっくり目を瞑った。

 静寂が訪れる。
 4人とマリーナは、まだ水晶に手を翳したまま瞼を閉じているマリアを見守っている。
 マニュアは、それを窺いながら考え事をしていた。
(……。未来……未来なんて、そんなもの……)
 やがて、マリアの手がゆっくりと下ろされ、目がすぅっと開けられた。静かに口を開く。
「そうですね。あなた方の未来は――」
 バンッ!!!!
 マリアが語ろうとしたとき、手のひらで力いっぱいテーブルを叩いたのはマニュアだった。
 とつぜんのことに、みんな絶句している。
「…………マ、マニュア、ちゃん……?」
 やっと問うようにティルが声をかけると、
「未来……なんて……」
 最初は聞こえないくらい微かなものだった声が、少しずつ大きくなっていった。
「未来なんて! もう分かってる! 決まってるんだ……! 本当は、私なんて、戻ってこなければ良かった……!」
 マニュアの声は震えている。
「マニュアちゃ……」
「そのままみんなに捨てられれば良かったんだ! 裏切られて良かったんだ! 私がこうして戻ってきたことで、みんなが――……!」
 マニュアはいったいなにを知っているというのか。それは、誰にも分からなかったが、マニュアがなにかに酷く怯えていることは伝わってきた。
 ――誰も知る由もないことだが、(結構前の話で読者さんも忘れている気がしますが)マニュアは1度未来を経験しているのだ。そのときの恐怖が甦ってくる。
(私は、私は、お母さんに助けられ、もう1度人生をやり直した……。でも、このままじゃ……このままじゃ……)
「――未来なんて、結果なんて、今のままじゃ……分かってる……。そんなの、聞きたくない……。そんなもの、聞きたくなんてないッ!!!!」
 マニュアはそう叫ぶと、館を飛び出していってしまった。
「マ、マー!?」
「マニュちゃん!?」
「ホワさんっ!!」
「マニュアさんっ! マリーナ、店番を頼むね!」
「え!? ちょ、ちょっと……! マリアちゃん!」
 マリアは店番をマリーナに押しつけると、水晶を抱え、マニュアの後を追って出ていった。
「あ、クノッソスさん! 私たちも……!!」
 ティルたちも後を追おうと立ち上がったが、それをマリーナが制した。
「マリアちゃんに、任せておいて」
「え……。う、うん……」