グローリ・ワーカ 第16章:Live or Die
さて、そのころ。先ほど話題にも上がったマニュアは――?
「――ここは……」
他のみんなが出た部屋よりも、もう少し広い部屋に出ていた。
「広間――かなぁ……」
再び魔族の姿に変身しているピュウが言った。
――って、おい? 月水晶がないと変身できないのでは――?
「え? そんな。訊くなんて野暮だよ」
どこから持ってきたのか、月水晶を手にしている……。――ピュウ、それは窃盗って言ってね……。
「あっはっはー」
笑ってごまかす。
盗賊よりも盗賊らしいピュウだった。
「誰もいないのかなぁ……?」
そんなピュウの行動も気にせず、マニュアは広間をゆっくりと進みながら呟いた。
そのとき!
「私がいるわよ」
声のしたほうに目を向けた。
それは、奥に続く道から。姿を現したのは、なんと! 全長10メートルもある、まさしく怪物と呼ぶべき生物――……!
「「「うそをつけいぃっ!!!!」」」
ご、ごめんなさい。悪ノリが過ぎました……。
姿を現したのは、なんと! ――あのシリアだった。
「シ、シリア……ッ!?」
「お姉ちゃん……。きっと、この道を選ぶと思った……。目立ちたがりのお姉ちゃんなら真ん中選ぶかなって、なんとなく」
「は、はははは……」
シリアの言葉に乾いた笑いを浮かべるマニュア。
シリアは続けた。
「お姉ちゃん。ここで、最後のお願いを聞いてほしいの」
「さ、最後……?」
不吉なキーワードに、マニュアの体は勝手に小さく震えた。
「なに……? 最後って……。そして、お願いって……」
震えた声で尋ねる。
シリアに浮かんだ笑みはシリアが仲間になったのは罠だと明かしたあのときと同じ、歪んだものだった。
「それはね、お姉ちゃん。あなたがすぐ魔族に戻ること。妹のお願い、聞いてくれるでしょう?」
「――――……!!」
マニュアの体は電撃が走ったようだった。いや、そう感じた。
今までにあまり聞いてあげることもできなかった妹のお願いだ。だからといって、そのお願いを聞くことなどとうぜんできるはずもない。
ただ、マニュアは後悔していた。城から逃げ出す際、シリアを連れて出なかったことを。幼いころだけではなく、シリアの苦しみを聞いた後でまでも――また、裏切ってしまったのだ。
目を見開いたまま頭を垂れた。手を、血が滲みそうなほどぎゅっと固く握り締めた。
――しかし、今になってどれだけ後悔しても、シリアの苦しみには届かない。それはわかっていた。
「お姉ちゃん、お願いを聞いてくれないの? ――そう……、そうなの……」
何も答えないマニュアの様子を見て、シリアはもうわかっていたかのように諦めの言葉を発した。
マニュアがはっとして顔を上げると、恨みの炎を瞳に宿したシリアが告げた。
「ならば――殺す!」
シリアの手にはどこから持ち出したのか、剣が握られていた。
マニュアは慌てた。
「な……! そんな……っ、だって、む、無理だよ……っ! そんなお願い……というか、要求……!」
「そう? なにが無理なの?」
マニュアの言葉にシリアが冷たく返す。
「そ、それに……、魔族に戻るもなにも、私はもう魔族だよ! それは変えられない。……でも、心は人間――いや、人間だとかそんなことじゃなくて、みんなを想って生きていきたい! そう決めたの!! だって、私には仲間がいるから……!!」
さらにマニュアが(なんだか火に油でも注いでんじゃなかろーかっていうくらいの言葉で)返す。
「え? あ……」
「――そう。お姉ちゃんには仲間がいる……」
シリアが、どこか遠くを見て小さく呟いた。
「シ、シリア……?」
シリアの様子がまたおかしい。マニュアはゆっくりとシリアに近付いて彼女の顔を覗き込んだ。
「仲間が――。私は……持ってない……」
そう呟いたかと思うと、きっ! とマニュアを睨み、とつぜん剣の切っ先を払った。瞳に宿った恨みの炎は、さらに勢いを増していた。
すんでのところでそれをかわしたマニュアが叫ぶ。
「シリア! それズルイ! それに剣技なんてシリアの得意な分野じゃない!!」
マニュアの言うとおり、シリアは剣を習っていたので得意だった。ちなみにマニュアは呪法を覚えるのに夢中で、剣はやっていなかった。
「そんなの問答無用よ!! 死にたくなかったら、魔族に――心も魔族に戻って! そして……一緒に人間界を滅ぼして私たちのものにしましょう! ずっと一緒に!」
「イヤだっ!! 私は魔族には魔界だけで十分だと思うけど!?」
「うるさい! 戻る気がないのなら……死ねぇっ!!」
ザッ!!
シリアの振るった剣が、今度はマニュアの腕を掠った。
「――……つっ……!」
マニュアの腕に一筋の赤い線が浮かぶ。
「お姉ちゃんにはここで死んでもらうわっ! 死にたくなければ私を殺すことね!! 生きるか死ぬかよっ!」
シリアは本気だ。
「そ、そんな……!」
さて、そのころ。先ほど話題にも上がったマニュアは――?
「――ここは……」
他のみんなが出た部屋よりも、もう少し広い部屋に出ていた。
「広間――かなぁ……」
再び魔族の姿に変身しているピュウが言った。
――って、おい? 月水晶がないと変身できないのでは――?
「え? そんな。訊くなんて野暮だよ」
どこから持ってきたのか、月水晶を手にしている……。――ピュウ、それは窃盗って言ってね……。
「あっはっはー」
笑ってごまかす。
盗賊よりも盗賊らしいピュウだった。
「誰もいないのかなぁ……?」
そんなピュウの行動も気にせず、マニュアは広間をゆっくりと進みながら呟いた。
そのとき!
「私がいるわよ」
声のしたほうに目を向けた。
それは、奥に続く道から。姿を現したのは、なんと! 全長10メートルもある、まさしく怪物と呼ぶべき生物――……!
「「「うそをつけいぃっ!!!!」」」
ご、ごめんなさい。悪ノリが過ぎました……。
姿を現したのは、なんと! ――あのシリアだった。
「シ、シリア……ッ!?」
「お姉ちゃん……。きっと、この道を選ぶと思った……。目立ちたがりのお姉ちゃんなら真ん中選ぶかなって、なんとなく」
「は、はははは……」
シリアの言葉に乾いた笑いを浮かべるマニュア。
シリアは続けた。
「お姉ちゃん。ここで、最後のお願いを聞いてほしいの」
「さ、最後……?」
不吉なキーワードに、マニュアの体は勝手に小さく震えた。
「なに……? 最後って……。そして、お願いって……」
震えた声で尋ねる。
シリアに浮かんだ笑みはシリアが仲間になったのは罠だと明かしたあのときと同じ、歪んだものだった。
「それはね、お姉ちゃん。あなたがすぐ魔族に戻ること。妹のお願い、聞いてくれるでしょう?」
「――――……!!」
マニュアの体は電撃が走ったようだった。いや、そう感じた。
今までにあまり聞いてあげることもできなかった妹のお願いだ。だからといって、そのお願いを聞くことなどとうぜんできるはずもない。
ただ、マニュアは後悔していた。城から逃げ出す際、シリアを連れて出なかったことを。幼いころだけではなく、シリアの苦しみを聞いた後でまでも――また、裏切ってしまったのだ。
目を見開いたまま頭を垂れた。手を、血が滲みそうなほどぎゅっと固く握り締めた。
――しかし、今になってどれだけ後悔しても、シリアの苦しみには届かない。それはわかっていた。
「お姉ちゃん、お願いを聞いてくれないの? ――そう……、そうなの……」
何も答えないマニュアの様子を見て、シリアはもうわかっていたかのように諦めの言葉を発した。
マニュアがはっとして顔を上げると、恨みの炎を瞳に宿したシリアが告げた。
「ならば――殺す!」
シリアの手にはどこから持ち出したのか、剣が握られていた。
マニュアは慌てた。
「な……! そんな……っ、だって、む、無理だよ……っ! そんなお願い……というか、要求……!」
「そう? なにが無理なの?」
マニュアの言葉にシリアが冷たく返す。
「そ、それに……、魔族に戻るもなにも、私はもう魔族だよ! それは変えられない。……でも、心は人間――いや、人間だとかそんなことじゃなくて、みんなを想って生きていきたい! そう決めたの!! だって、私には仲間がいるから……!!」
さらにマニュアが(なんだか火に油でも注いでんじゃなかろーかっていうくらいの言葉で)返す。
「え? あ……」
「――そう。お姉ちゃんには仲間がいる……」
シリアが、どこか遠くを見て小さく呟いた。
「シ、シリア……?」
シリアの様子がまたおかしい。マニュアはゆっくりとシリアに近付いて彼女の顔を覗き込んだ。
「仲間が――。私は……持ってない……」
そう呟いたかと思うと、きっ! とマニュアを睨み、とつぜん剣の切っ先を払った。瞳に宿った恨みの炎は、さらに勢いを増していた。
すんでのところでそれをかわしたマニュアが叫ぶ。
「シリア! それズルイ! それに剣技なんてシリアの得意な分野じゃない!!」
マニュアの言うとおり、シリアは剣を習っていたので得意だった。ちなみにマニュアは呪法を覚えるのに夢中で、剣はやっていなかった。
「そんなの問答無用よ!! 死にたくなかったら、魔族に――心も魔族に戻って! そして……一緒に人間界を滅ぼして私たちのものにしましょう! ずっと一緒に!」
「イヤだっ!! 私は魔族には魔界だけで十分だと思うけど!?」
「うるさい! 戻る気がないのなら……死ねぇっ!!」
ザッ!!
シリアの振るった剣が、今度はマニュアの腕を掠った。
「――……つっ……!」
マニュアの腕に一筋の赤い線が浮かぶ。
「お姉ちゃんにはここで死んでもらうわっ! 死にたくなければ私を殺すことね!! 生きるか死ぬかよっ!」
シリアは本気だ。
「そ、そんな……!」