グローリ・ワーカ   第18章:もう迷わない

 魔王城には本館と別館がある。本館と別館は繋がっていて、どちらも同じくらい、とんでもなく広い。某黒いネズミの王国並に広い。なんとファンタジーだね!
 そんな別館の半分を占めているる、魔界一の広さ、そして蔵書の量を持つ図書室――いや、正しくは図書館だろうか。
 その図書館に2人はやって来ていた。
「うっわぁ……。広……! っていうか本の量すごーい!」
「しーっ! 騒がないの」
 シリアが口元に指を当ててティルをいさめる。……どちらがお姉さんなのかわからないね、ティルちゃん。
「あう。そんなことないよぉ!」
「ティル」
 シリアの雰囲気がとつぜん変わった。真剣な瞳で、まっすぐティルを見る。
「え? な、なに?」
 少なからず動揺しながらも尋ねるティル。
 シリアははっきりとした声で答えた。
「――ある本を、探すのを手伝ってほしいの」
「本?」
「……そう。探してほしいのは、古の呪法が載っている本」
「古の呪法……?」
「えぇ」
 シリアが頷く。
「古の呪法ってなに?」
「古の呪法――それは、はるか昔に使われていた呪法。今や簡略化されたり、必要なくなったり、禁止されたりして使われなくなった呪法のこと。そんな呪法が載っている本が、この中のどこかにあるはずなの!」
 シリアの説明に、ティルが首を傾げる。
「なんでそんなものが必要なの? だってもう使わない呪法なんでしょ?」
「…………」
 先ほどの出来事をなにも知らないティル。シリアがそれを手に入れてなにをしようとしているのか、あの場に居合わせた人なら察しがつくかもしれない。そして、そんなシリアを止めようとするかもしれない。けれど、彼女は決意していた。
「――なにがなんでも、必要なのよ。いいから、この中から探すのを手伝って!」
「う、うん。――って言ってもさぁ……」
 シリアの剣幕に気圧されたティルはそう返事したものの――心底うんざりした表情で周囲を見渡した。
「この広さ……」
「私はこっちを調べるから、ティルはこっちを――」
「ねぇ! ちょ、ちょっと待ってよぉ! この中からでしょぉ……!? 無理だよぉ!」
 1つのフロアだけでもいっきに全部見渡すことなどできないほどの広さなのに、これが何階もあるというのだから……無理難題である。
 しかし反論など認めない。シリアは言った。
「でも、やるしかないのよ!」
「そんなぁー! なんでぇ!?」
 ティルの文句に耳を傾けもせず、シリアはさっそく作業に取り掛かった。
「お姉ちゃんは、ずっとここに篭って勉強していた……だから、きっとあるはず! 見つけてみせるわ!」

 それから本探しを始めて、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
 時計など見ている暇はなかった。
 ふと、ティルが思い出したかのようにシリアに尋ねてきた。
「シリア……」
「ん? なに?」
 視線は本を探る自分の手からは逸らさず答えた。
「ねぇ、本当はマー――マニュアちゃんのこと、どう思ってるの? 殺してって言ったり、助けたり……あ、でもあれはミリアで人間界を滅ぼそうとしてたからそれを救うために殺してってことだったんだっけ?」
 ティルが自分の質問にわけがわからなくなりながら呟いた。
「私は――……」
 ずっと手元だけを見ていたシリアが視線を遠くへと逸らした。
 少しの間。ティルがシリアのそんな様子に気付いて「?」を浮かべる。
「……私は――」
 シリアが静かに話し始める。
 姉に裏切られて、ずっと憎んでいて――でも、ずっと大好きだったことを。