グローリ・ワーカ   第18章:もう迷わない

「あ!」
 しばらくして落ち着いたシリアと一緒に、再び本を探し始めたティルがとつぜん声を上げた。
「え!?」
 驚いて反応するシリア。
「これじゃない!?」
 ティルが興奮して1冊の本を手渡してきた。
 シリアはドキドキしながらそれをめくる。……が、
「……違うわ。これは普通の呪法。今でも使われてるものよ」
「えー。違うのぉ」
 残念そうにそう言って、ティルは再び持ち場へと戻った。
 シリアもため息をついて、また作業へと戻るのだった。
 そうして――。
「見つからないねぇ……」
 それから何度か同じようなことを繰り返して、ティルがいい加減疲れた様子で言った。
「でも、どっかにあるはずよ……」
 少し不安になりながらも答えるシリア。ぽつりと小声で余計なことを付け足して。
「た、たぶん……」
「えぇぇぇぇ!?」
 ティルが驚きと困惑の混じった声を上げた。
 シリアは慌てて、
「も、もしかしたら、別の階にあるかも! 一応ここが呪法関連の本置いてあるところなんだけどね! 他の階って可能性もあるし、私見てくるわ! とりあえず、この階、あとよろしくねっ!」
 そう言い残し、ささっと他の階へ移動した。
「えー! シリアぁ〜!」
 不満そうな声が聞こえた気がしたが、いい。気にしない。
「ふぅ……。それにしても、本当、どこかしら……。時間もあまりないし、あのままだと先にお姉ちゃんのパーティーが全滅しちゃうかもしれないし……」
 困ったような顔でそう呟いた。
 しかし、1つ1つ探すしかない。
「とりあえず、ここは――」
 新しいフロアを見渡す。
「――歴史なんかの本が置いてあるところかしら。早く見つかるといいけど……」
 そう言って、また端から目当ての本を探し始めた。
 そのとき――。
「……! お母さん……!?」
 誰かが目の前を横切った気がした。驚いてふっと顔を上げる。
 すると、奥の本棚の陰へと消える誰かの後ろ姿が見えた。
「……お母さん!」
 直感がそう告げて、シリアは声を上げた。慌ててその人を追う。
 その人が見えなくなった本棚まで行って奥を覗き込む。再び母を呼びながら。
「お母さん!」
 そこで本棚に寄りかかっていたのは、母ではなかった。
「え……」
「どーも」
 そこにいた人物が腕組をしたまま挨拶をしてきた。
 シリアは驚いた様子で、その名を呼んだ。
「えっと……ピ、ピュウ?」
「そうだよ」
 そこにいたのは、魔族の姿をしたピュウだった。
「なんだ……あなただったの……」
 ここに母がいるわけがない。当たり前だ。
 そうはわかっていても、少なからず気落ちしてしまった。
「なんのこと? それより。はい、この本」
 とぼけた様子でそう言った後、ピュウは1冊の本をシリアに差し出した。
「! ――これっ……!」
 すぐさまその本を受け取り、ぱらぱらとめくってみる。
 それは紛れもなく、シリアが探していたものだった。
 驚いた表情でピュウを見て言った。
「あ、あなたは――」
 ピュウはふっと笑って、
「もうすぐわかるよ」
 そう一言だけ言うと、そのまま部屋を出て行ってしまった。
「…………」
 1人取り残されたシリアは、ただそこにぼうぜんと突っ立っていた。