グローリ・ワーカ   第20章:最終決戦

 子供のはしゃぎ声が聴こえる。2人の女の子――それは、幼い頃のマニュア、いや、ミリアとミンミンだった。
 今の状況が信じられないくらい平和そのもので、2人は公園で追いかけっこをしていた。追いかけているのはミリア。ミリアは急に立ち止まって喚き出した。
「ミンミンちゃーん! ミリア、足遅いもん! 捕まえられないよぉ!!」
「ミリアちゃん! ……しょーがないなぁ。じゃあ、ちょっと休もっか」
 2人は、その公園にあった鉄棒に寄りかかって、話を始めた。
「あのねー、ミリアちゃん。私、大きくなったら四天王とかいうのになれって、パパとママが言うの。ミリアちゃんは何になるの?」
 ミンミンが突然そんなことをミリアに尋ねた。
 ミリアは首を横に振った。
「ミリア、わかんないよ。でも、いつもケンカしてる、2人とも。人間界を助けるか、パパの言うことを聞くか――」
 どこか、言葉になってない言葉で返事をした。ただ、ミンミンにも、人間界へ行くか否か、ということだけは理解できた。
「ふーん。じゃあさ、ミリアちゃん、行かないでここにいようよ。私、四天王になるから、ミリアちゃんも四天王になろうよ、ね」
 ミンミンがミリアに笑顔で言った。
 実際のところ、四天王は血筋で決まっているものなので、ミリアが四天王になるのは無理なことだったが、当時のミンミンがそれを知るわけもなく無邪気にそう言ったわけだ。
「うーん……」
 ミリアは悩んでいる様子だったが、ミンミンはそれには気付かず右手の小指を突き出した。
「ね。約束だよ! どこにも行かないって」
 ミリアはミンミンの顔を見ると、思わず笑ってしまった。
「ん、わかったよ。どこにも行かない」
 ミンミンの小指に自分の小指をクロスさせ、静かに頷いた。

 ――その数年後。
「――ごめん。私、人間界を救わなきゃ……。行かなきゃいけない……」
 ミリアがうつむき加減に言った。ミンミンは呆然としている。
「……どうして? 約束……!」
「お母さんと約束しちゃったの……、人間界を助けるって……」
 その言葉に、ミンミンは怒りを露にして声を上げた。
「私だって約束したじゃない!! どーして!!??」
「…………ごめん」
 ミリアは目に涙を溜めながら頭を下げた。一筋の雫が零れる。
 しかし、ミンミンの怒りは、裏切られた気持ちは、そんな言葉で治まりはしなかった。
「――……っ! もう知らないっ!! ウソつき! ミリアちゃんのウソつきぃっ!!!!」
 ミンミンは泣きながら走り去っていってしまった。後に残されたミリアも、ただただ、涙を流すだけだった。
 そして、その後、ミンミンと出会うことは、先日魔王城に乗り込んだ時まで1度もなかった。