グローリ・ワーカ 第21章:思い出を胸に
「おまえは、魔族だ」
「私は、魔族――」
ミリアの声が響き続ける。そうしているうちにマニュアは、それを認めてしまえば楽になるのではないかと思えてきた。
「そうだ。魔族だ」
ミリアが満足そうに言う。
あぁ、そうか。魔族だった。なにをやっているんだろう。なんで戦っていたんだろう。なんのために――、
「おねえちゃん!」
はっとした。
誰かが自分を呼ぶ声が聴こえた気がした。
「――シリア……!」
とても大切なことを思い出した。
そうだ、この暗闇はあの時――シリアに助けてもらった暗闇に似ている。シリアが自分の命を賭けてまで救ってくれた時にいた暗闇に。
「そうだ――」
――こんなんじゃ、ダメだ。
マニュアはぐっと拳に力をこめた。
「――なんだ?」
ミリアが一歩マニュアに近付く。
マニュアはきっと顔を上げて、叫んだ。
「私は、負けない! 魔族とか関係ない! 命を賭けて私を助けてくれたシリアのためにも――私は、負けられない!」
その言葉に反応したかのように、突然暗闇が晴れ、辺りは光に包まれた。それも構わず、マニュアは叫び続けた。
「それに! 私は、ずっとみんなと一緒にいたい! みんなと、また旅をしたい! 人間とか魔族とか、そういったことは関係なくて――ただ、ただそれだけなんだ!!」
いつの間にか、温かいものが頬を伝っていく。
「守りたいんだ……。みんなを、守りたい! 平和になった世界を、また一緒に旅したいんだ……!!」
(この声――……?)
誰かの声が僅かに耳に届いた気がした。
とても、とても温かい。大切な声。
「あなたのせいで俺は――」
体の崩れたウィシュプーシュが這うようにしてティルに近付く。
「俺が気持ち悪い? 所詮、魔物のことなんてその程度しか思っていないんだろう?」
ウィシュプーシュがそう吐き捨てるように言う。
『気持ち悪い』――あぁ、そういえば。小さい頃にいじめられてたな……。魔物と仲良くしてるなんて気持ち悪いって……。
幼い頃のティルが泣いていた。
その隣に仲良くしていた魔物がやって来て、優しく尋ねた。
「どうした?」
「魔物と仲良くしてるなんて、気持ち悪いって……」
泣きながらそう答える。
魔物は困ったように笑って、ティルの頭を撫でた。
「ティルは優しいな。みんな、もっと優しくできればいいのにな」
異形の姿をした者は彼らにとって受け入れにくいものだと、魔物はわかっていた。
でもきっと、理由はそれだけではなかった。今、世界は魔王の姿に怯え始めている。本来魔界の住民である魔物など受け入れられるはずもない。
それでも――、
「いつか、人間と仲良くできればいいな」
魔物は言った。
「もしも、世界が平和になれば……。人間を嫌っている魔物ばかりではないと、わかってもらえるのかもしれない。ここに、魔物を嫌っていない人間がいるように、ね」
そうして、ティルの涙を拭った。
その言葉に、ティルはなんだか嬉しくなって、笑ったのだった。
――あぁ、こんな日もあったな。もうすっかり忘れていたけれど。
(そうだ。世界が平和になれば――)
「ごめんね。ウィシュプーシュ。気持ち悪くなんてないよ」
ティルはウィシュプーシュをまっすぐ見つめてそう言った。
「な、なにを――」
戸惑いながら、ウィシュプーシュは彼女を見つめ返した。
「私は、世界を平和にしたいんだ。そうしたら、きっと、あなたたちと分かり合える日が来るって、信じてるから」
「俺の望み……」
「――どうした?」
ストームの祖父が、立ち尽くすストームに訝しげに尋ねた。
「愚問だな!」
と、突然ストームが声を上げた。
「魔王を倒す! そうすれば、つまり、俺自身が有名人になれる! 有名人になる! それが俺の望みだ!!」
ビシィッ!! と親指を自分に突きつける。
祖父は突然のことに驚いて、ぽかーんとしている。
「決まった……!」
1人だけ満足そうなストームでしたとさ。
「アルトを――アルトを助けて!」
膝を着いて、アリスが泣き叫んだ。
「私の命なんていらないから――!!」
「アリちゃんらしくない」
思わぬ言葉が聞こえた。
「え?」
先ほどまで幼い頃の姿をしていたアルトが、成長した――今のアルトの姿になって、そこにいた。
「アルト……」
「私の知ってるアリちゃんは、そんな弱気じゃないよ」
――これは、幻覚?
そうだ、そもそも、あんなに幼かった頃のアルトはもういない。アルトは無事に成長している。そして、本物のアルトが今の発言を聞いていたなら、きっとそう言ってくれていた。
「――あぁ、そうね。そうだね! こんなの、私らしくない!」
そう言って立ち上がる。
「私は、アルトと――みんなと一緒に生きて帰る! あのムカつく魔王を倒して、ね!」
「おまえは、魔族だ」
「私は、魔族――」
ミリアの声が響き続ける。そうしているうちにマニュアは、それを認めてしまえば楽になるのではないかと思えてきた。
「そうだ。魔族だ」
ミリアが満足そうに言う。
あぁ、そうか。魔族だった。なにをやっているんだろう。なんで戦っていたんだろう。なんのために――、
「おねえちゃん!」
はっとした。
誰かが自分を呼ぶ声が聴こえた気がした。
「――シリア……!」
とても大切なことを思い出した。
そうだ、この暗闇はあの時――シリアに助けてもらった暗闇に似ている。シリアが自分の命を賭けてまで救ってくれた時にいた暗闇に。
「そうだ――」
――こんなんじゃ、ダメだ。
マニュアはぐっと拳に力をこめた。
「――なんだ?」
ミリアが一歩マニュアに近付く。
マニュアはきっと顔を上げて、叫んだ。
「私は、負けない! 魔族とか関係ない! 命を賭けて私を助けてくれたシリアのためにも――私は、負けられない!」
その言葉に反応したかのように、突然暗闇が晴れ、辺りは光に包まれた。それも構わず、マニュアは叫び続けた。
「それに! 私は、ずっとみんなと一緒にいたい! みんなと、また旅をしたい! 人間とか魔族とか、そういったことは関係なくて――ただ、ただそれだけなんだ!!」
いつの間にか、温かいものが頬を伝っていく。
「守りたいんだ……。みんなを、守りたい! 平和になった世界を、また一緒に旅したいんだ……!!」
(この声――……?)
誰かの声が僅かに耳に届いた気がした。
とても、とても温かい。大切な声。
「あなたのせいで俺は――」
体の崩れたウィシュプーシュが這うようにしてティルに近付く。
「俺が気持ち悪い? 所詮、魔物のことなんてその程度しか思っていないんだろう?」
ウィシュプーシュがそう吐き捨てるように言う。
『気持ち悪い』――あぁ、そういえば。小さい頃にいじめられてたな……。魔物と仲良くしてるなんて気持ち悪いって……。
幼い頃のティルが泣いていた。
その隣に仲良くしていた魔物がやって来て、優しく尋ねた。
「どうした?」
「魔物と仲良くしてるなんて、気持ち悪いって……」
泣きながらそう答える。
魔物は困ったように笑って、ティルの頭を撫でた。
「ティルは優しいな。みんな、もっと優しくできればいいのにな」
異形の姿をした者は彼らにとって受け入れにくいものだと、魔物はわかっていた。
でもきっと、理由はそれだけではなかった。今、世界は魔王の姿に怯え始めている。本来魔界の住民である魔物など受け入れられるはずもない。
それでも――、
「いつか、人間と仲良くできればいいな」
魔物は言った。
「もしも、世界が平和になれば……。人間を嫌っている魔物ばかりではないと、わかってもらえるのかもしれない。ここに、魔物を嫌っていない人間がいるように、ね」
そうして、ティルの涙を拭った。
その言葉に、ティルはなんだか嬉しくなって、笑ったのだった。
――あぁ、こんな日もあったな。もうすっかり忘れていたけれど。
(そうだ。世界が平和になれば――)
「ごめんね。ウィシュプーシュ。気持ち悪くなんてないよ」
ティルはウィシュプーシュをまっすぐ見つめてそう言った。
「な、なにを――」
戸惑いながら、ウィシュプーシュは彼女を見つめ返した。
「私は、世界を平和にしたいんだ。そうしたら、きっと、あなたたちと分かり合える日が来るって、信じてるから」
「俺の望み……」
「――どうした?」
ストームの祖父が、立ち尽くすストームに訝しげに尋ねた。
「愚問だな!」
と、突然ストームが声を上げた。
「魔王を倒す! そうすれば、つまり、俺自身が有名人になれる! 有名人になる! それが俺の望みだ!!」
ビシィッ!! と親指を自分に突きつける。
祖父は突然のことに驚いて、ぽかーんとしている。
「決まった……!」
1人だけ満足そうなストームでしたとさ。
「アルトを――アルトを助けて!」
膝を着いて、アリスが泣き叫んだ。
「私の命なんていらないから――!!」
「アリちゃんらしくない」
思わぬ言葉が聞こえた。
「え?」
先ほどまで幼い頃の姿をしていたアルトが、成長した――今のアルトの姿になって、そこにいた。
「アルト……」
「私の知ってるアリちゃんは、そんな弱気じゃないよ」
――これは、幻覚?
そうだ、そもそも、あんなに幼かった頃のアルトはもういない。アルトは無事に成長している。そして、本物のアルトが今の発言を聞いていたなら、きっとそう言ってくれていた。
「――あぁ、そうね。そうだね! こんなの、私らしくない!」
そう言って立ち上がる。
「私は、アルトと――みんなと一緒に生きて帰る! あのムカつく魔王を倒して、ね!」