グローリ・ワーカ   第23章:全ての祈り

 杖から放たれる光は、誰もが心地よく感じるものだった。そして、その光は全ての世界を覆い尽くした。
 とても温かな光で、魔父の存在をも掻き消していく。
『うわあぁぁ……っ!! そんな……っ! この……この私が……!! 馬鹿な……! 私の……私ノ夢ガ……!! 魔界ノ……繁栄シタ未来ガ…………ッ!!!! グアアァァァァッ!!!!』

 ――……。
「あなた」
(…………おまえは……)
 夢現で、マニュアの義父であり、シリアの父であるその魂は、懐かしい姿を見た。
「久しぶりね。……もう、いいでしょ?」
(……あぁ……。そうだな……)
 諦めたように、しかし、どこか嬉しそうに。義父は頷いた。
「魔族と人間だって、仲良くなれるはずよ。――私たちのように」
 光り輝くその姿は、そっと義父の手を握った。
 義父は静かに瞼を閉じ、穏やかな表情を浮かべ、語り出した。
(――私たちは、人間界の全てを恨んでいるわけではなかったんだ。ずっと昔から聞かされていた魔族の使命だって、本当はどうでもよくなっていた。ただ、手に入れたかった。人間界を手に入れれば、もっと自由に――おまえと一緒にいられると思っていたんだ)
 再びゆっくりと目を開き、その光る懐かしい姿を愛おしそうに見つめる。
 見つめられた光は穏やかに微笑み、
「魔界も人間界も関係ないじゃない。私は一緒にいた。……そして、これからもまた一緒にいられるんだから」
 そう優しく言った。
 その言葉に、義父はゆっくりと頷いて、ふっと微笑った。
(私たちの時代は終わったんだな……。残る世界は若い奴らに託すさ。どうするかは、あいつらで考えてくれることだろう。それがどんな未来になろうと、こうなってしまったらもう、私たちは見守ることにしよう。な、魔王?)
 魔王を振り返る。魔王はふてくされたように、
(……フン。私の遺志を継いでくれるヤツがいるさ。後は任せることにするわい)
 義父は笑って、少し間をおいてから、言った。
(最後に、1つだけやることがある)
「えぇ」
 義父は、光の向こうの残される者たちを見下ろした。そして、なにかを呟いた。
「――…………」
 それから、静かに降り注ぐ光の中へと消えていった。大切な者の魂と共に――