グローリ・ワーカ   第24章:そしてこれから

「そうだ! シリア、私のこと、助けてくれたんだね。ありがとう」
 マニュアがふと思い出したようにシリアに言う。
 本当は真っ先に言わなければならないことだった気もするが。お互いいろんなことでいっぱいいっぱいになってしまい、言うタイミングを逃してしまっていた。
「でも、私があれだけ時間をかけて解いた呪法をあっさり解いちゃうんだから。すごいな、シリアは……」
 ちょっとだけ悔しそうなマニュア。
 しかし、シリアも悔しそうな表情をして言った。
「すごくないよ。お姉ちゃんの方がすごいよ……」
「へ? なにが?」
 思いもよらぬ返答に、今度は驚きの表情を浮かべる。
 シリアの方は表情を変えずに続ける。
「だって、お姉ちゃんには、仲間がいるじゃない。これだけ心配してくれる仲間が……。私には――」
「え? シリアも仲間でしょ?」
 不思議そうにそう言ったのはティルだった。
 予想外の言葉に、シリアは驚いてティルの顔を見た。
「短い間でも、私たちは一緒に旅をしたじゃない」
 ティルが笑う。
 アルトも頷き、
「そうですよ。呪法も教えてもらいましたし。一緒に唱えたし」
「キャラクター紹介にも載ってるし、仲間だよ!」
 アリスも『宣伝:キャラクター紹介UP!』という看板を手に、そう言った。
「って、ここまで来てメタメタな……!」
 マニュアがツッコむが、今までのことを考えると「おまえが言うな」である。
「とにかく! シリアも仲間だよ! それとも、シリアはそう思ってないの?」
 ティルが尋ねる。
 シリアは力いっぱい首を横に振り、
「――私も仲間だよっ!」
 と笑った。

 和やかな時が過ぎていく。
 ――さて、そろそろ魔界を後にしようかと、みんなは立ち上がった。
「お姉ちゃん、人間界に戻るんだね」
 シリアがマニュアの後ろ姿に声をかける。
 マニュアは振り返り、
「うん……。私はもう1度人間界に戻ろうと思ってるけど――シリアも、行く?」
 今度こそは彼女も連れ出そうと、手を差し伸べた。
 シリアは一瞬だけ驚いた表情をした後、穏やかに微笑んで言った。
「……ううん。私は、やることがあるから。――魔界のみんなに、人間に対する想いを変えさせる」
「シリア……」
「四天王のみんなも、手伝ってね」
 シリアが笑いながら四天王を振り返る。
「――私は、上の者に従うだけです」
 トンヌラがそう返した。実はツンデレなのかもしれない。
「ツ、ツンデレって――そ、そうではなくて……!」
「まぁとにかく。魔界のことはあたしたちに任せなさいよ。あんたは今までどーり好きに過ごせばいいわ」
 ミンミンもそう言ってくれる。
「ぐ……。しかし、なんだか毒を感じる……。実はやっぱりまだちょっと恨んでるでしょ……。うー。本当にいいの? 大丈夫?」
「なにをいまさら。別にいいわよ」
「でも、ちゃんとまた顔出しに帰ってきてよね、お姉ちゃん!」
 そう言って笑う2人を見て、マニュアは静かにまぶたを閉じて、頷いた。
「……うん。ありがとう。必ず、また」
「アリスちゃああああ〜〜〜〜〜〜んっ!! お別れなんて寂しいっスゥ〜〜〜〜!」
「げぇっ! キリオミ!!」
 どさくさに紛れてアリスに飛びつこうとするキリオミを、ヤンが魔法で燃やした。
「あっちぃ〜っス〜〜〜〜!」
「まったく……。なにやってるんでしょうかねぇ」
 そんなキリオミを見て、トリヤスもため息を吐いた。
「でも、トリヤス? だっけ? も、鍵かけるの忘れるとか、びっくりしたよー」
 ティルが言う。
 トリヤスはギクリと焦った表情をして喚く。
「そ、そのことは、忘れてください! というか、もう余計なことは言わないでくださいー!」
「四天王って……間抜けなやつがなるもんなのか?」
 そんなことを思ってしまうニールなのだった。
「――一緒にしないでください……」
 四天王のリーダー格であるトンヌラが、少し涙目で疲れたように言った。
「まぁ、たしかに、おまえだけは別だって思っといてやるわ……」
(名前以外)
 最後の一言は口にせず。ニールはトンヌラにちょっとだけ同情したのだった。
「それじゃあ、そろそろ行くね」
 マニュアがその場を仕切って言った。
 人間界へ通じる穴を、呪法を使って開く。
「またね」
「うぅ……。寂しいっス……」
「それでは」
「――あなた方は私にとって敵なので、特に言うことはありませんが……また次があれば、その時に」
「お姉ちゃん……元気でね」
 四天王やシリアが見送る。
 穴を潜り抜けるその時、マニュアは最後に振り返って、
「私も! 人間界で、魔界や魔族に対する想いを変えさせてみせるよ! だから、シリアもよろしくね。元気で!」
 そう笑顔で手を振った。
 そうして、みんなにお別れを済ませ、グローリ・ワーカは人間界へと帰っていった。