グローリ・ワーカ   第4章:人間と魔族

「トーン――なぜそんなところに……!?」
 男はどこに怒りをぶつけたらいいのかわからない様子で呟いた。
 子供達が言う。
「洞窟へ行くって……僕達はやだって言ったんだ」
「危ないからだめだよって言ったけど、1人でも行くって言って、行っちゃったの……」
「洞窟なんだから宝箱とかあるんだよ! って言い出して」
 それは、子供特有の思い込みというやつか。そして好奇心には敵わなかったということだろう。
 その話を聞いていたメテオが、とつぜん言い出した。
「まさか……ノアもそこに……!?」
 メテオの言葉に、男は言った。
「ノア? なんでおまえの息子までそこにいるって言うんだ。おまえの息子が唆したのか?」
「いや、今の話からいくと、そのトーンって子が唆してそうなんだけど……」
「でも、可能性は、ゼロじゃないかも……」
 マニュア達はお互いに顔を見合わせ、頷いた。
「私達が見てきます!」
「え!? でも……」
 メテオが申し訳なさそうな顔をする。
 マニュアは親指を突き立て、
「大丈夫! こちとら冒険者ですから!!」
 そう言い、急いで洞窟へ向かう準備をする。
 その様子を見ていたメテオとヘリオドールが言った。
「――やっぱり、私達も行きます! 息子が心配だ」
「えぇ。連れて行ってください」
 その必死な様子に、マニュア達は頷く以外なかった。
 そして、さあ向かおうというとき、町の人間である男も言った。
「俺も行く! トーンが心配だ! 連れて行ってくれ!」
 ――こうして、5人(+1匹)+メテオ+ヘリオドール+町の男の一行は洞窟へと向かった……。


 それは、数時間前に遡る。
「ねぇ。君は誰?」
 川辺に座り込んでいるノアに、声をかけた少年がいた。
 ノアは心底びっくりして振り返る。今まででこんなふうに話しかけられたのは初めてだった。
 少し怯えながらも、友達が1度に5人もできたことで気分が晴れていたノアは答えた。
「ノア。……君は?」
 少年は答えた。
「俺はトーン! なぁノア。おまえも一緒に行かないか?」
「え? どこに……?」
 トーンは力強く、聳える山に向かって指を差した。
「あそこだよ! 洞窟には、きっと宝箱とかあるんだぜ?」
「えぇ……? 危ないよ?」
 ノアが言う。
 トーンは訝しげな顔をして、
「行ってみなきゃわかんないだろー? だいじょーぶだいじょーぶ。危なかったら帰ればいいんだ!」
 なんとも子供らしい、安易な考えで言う。
 だが、その言葉に、ノアも「平気かな?」と思えてしまった。
「うん。わかった。僕も行く」
「よしっ! そうこなきゃな!!」
 ノアはバケツをそこに置き、トーンの後ろを着いて、山へと入って行った……。


 そして、現在。
「ノア! おまえのせいだからな!!」
「えぇ……? トーン君が……」
「俺のせいだって言うのか!?」
 山の中で迷った2人は、泣きながら歩いていた。
「帰るぅ……」
「どっから帰るんだよ! だいたいなぁ、おまえが一緒に行くって言ったから……!」
「ごめんなさいぃ……。僕が行くって言わなかったら……」
 トーンの言葉に、ノアが泣きながら謝る。
 それに、トーンはさらにむしゃくしゃした様子で怒鳴った。
「だぁぁ! なんでおまえが謝るんだよ!! ほんとは悪いのは俺なんだぞ!!」
「え……」
 トーンのおもいがけない言葉に、ノアの涙はいっしゅんで引っ込んでしまった。
「俺が悪いのに、なんでおまえが謝るんだよ! おまえも文句言えばいいだろ!!」
 トーンが、ノアに背中を見せたまま怒鳴っている。
 そんなトーンに、ノアは少しだけ安心した。
「トーンくん……ごめん。ありがとう」
「なんで今度はお礼言ってるんだよ!?」
 怒っているのか照れているのか。ノアのほうは振り返らず、どんどんと奥へ進んでいく。
 すると、目の前にぽっかりと大きな口を開けた洞窟を見つけた。
「もしかして、ここが……!」
 2人とも洞窟内へと駆け出した。
「きっと、奥に宝があるんだ!」
 さっきまでの涙はどこへやら。2人は顔を輝かせて奥へ奥へと侵入していく。
 そして――

「ガアアアアアアアアアアアアッ!!」
 とつじょとして、背後から咆哮がした。驚いて振り返る。
 どこから現れたのだろうか。そこには、大きな魔物がいた。
「うわああああああああああああああああ――――――っ!」
 魔物が勢いよく爪を振り下ろす。
(助けて!!)
 ――心から、そう叫ぶ瞬間だった。