雨と君と僕
雨とは程遠い、青く澄んだ快晴の空を見上げる。
最近は、全く雨が降らない。
暑さは増し、農作物にも影響が出ている。異常気象だ。
ただ、そんな現状は関係なく、僕は雨が降ってほしかった。
雨じゃないと、君に会えないから。
久しぶりの雨が降った。朝から泣き出す空とは対照に、僕の心はいつかの青空のように澄んでいた。
傘を差し、外に飛び出る。
人気のない公園でしばらく待っていると、君が現れた。
「ひ、久しぶり」
少し緊張しながら君に話し掛けた。
君はにこりと微笑んでくれた。
君と出会ったのはもう何年も前。
雨に降られた僕は傘を持っていなくて、公園の東屋に逃げ込んだ。
雨が止むのを待っていると君が現れた。すーっと、まるで幽霊のように、徐々に実体が顕になっていく。
君は振り返り、僕の姿を視界に捉えると、驚いたような表情をした後、渋い顔をした。
「……君は?」
「…………雨女……」
雨女? 出掛ける先で雨が降りやすい女の人のこと?
「……妖怪だよ」君は続けて言う。「雨を降らせる妖怪、雨女」
「妖怪? こんなかわいいのに?」
思わず声に出ていた。
だって、かわいかった。そこら辺の人よりずっと。僕の中の妖怪のイメージが化物だったから、余計にそう思った。
雨女と名乗った君は、顔を真っ赤にした。
つられて、僕も顔を赤くする。
「……こっち来て、話さない?」
僕らはお互いに自己紹介をして、それからいろんな話をした。
君は雨の日に現れる。晴れの日はぼんやりしていて、はっきりとした姿を現せられるのは、雨の日だということだった。
雨を呼ぶ妖怪だけど、最近は力が弱まり、上手く雨を呼べないと言っていた。
姿を消している時はぼんやりしていると言うけど、具体的にはどうしているのかとか、逆に僕は普段こんなことをしているよとか、好きなものや嫌いなものとか、他愛ない話もした。
いつしか雨は上がり、君の姿がまた薄れていく。
「ねぇ! これからも雨の日にはここに来るから……また会おう!」
半透明になった君は頷いた。
それから雨の日は君と会うようになった。
どうしても外せない用事がある時以外は、ほぼ一方的に君とした勝手な約束を優先した。
最近は雨が降らず、なかなか会えなかった。でも、ようやく会えた。
「もうすぐ会えなくなると思う」
君から予想外の言葉が飛び出た。心臓が早鐘を打つ。
「……な、なんで? 僕のこと嫌いになった?」
思わず尋ねてしまう。これで、本当にそうだとしたら、立ち直れないだろうに。……いや、その時は、僕の嫌な部分を聞いて、ちゃんと直そう。
しかし、違った。
「もう力がないの」君が言った。「雨が呼べない。空が言うことを聞かない。私の力は消えかけている。もう、姿を現すこともできない」
はっとして君をよく見ると、体がうっすら透けていた。嘘だ。信じたくない。
君は僕を見て、再び笑った。
「ありがとう。一緒の日々は、すごく楽しかった」
「……僕だって……」
声を絞り出す。僕の目からも雨が降る。
「笑ってよ。笑顔が好きなんだ」
君だって泣いているくせに、そんなことを言う。
でも、君がそう言うなら。
僕は笑った。君も笑った。
相も変わらず、雨がなかなか降らない。あれから余計に降らなくなったようにも感じる。
それでも、雨が降れば急いでそこへ行く。
姿は見えないけれど、きっとそこにいると信じて、僕は君に話し掛ける。
「ねぇ、今日も話そう」
雨粒が飛び跳ねる。君が笑顔で頷いた気がした。
前回と同じく。某アプリのお題『雨と君』に投稿した内容に少し手を加えたもの。これも別のところにもほぼ同じの載せたけど。
暑さとか言ってるし、アップするなら梅雨時じゃないんかいという。自分でツッコミ。
あとついでに、今更になってShort Storyに入れてた「もうどうでもいいよ。」をチラシの裏の束に移動しました。やっぱりあれはあっちだよなってずっと思ってた。あれアップしてから10年以上経ってるのにね……!
雨とは程遠い、青く澄んだ快晴の空を見上げる。
最近は、全く雨が降らない。
暑さは増し、農作物にも影響が出ている。異常気象だ。
ただ、そんな現状は関係なく、僕は雨が降ってほしかった。
雨じゃないと、君に会えないから。
久しぶりの雨が降った。朝から泣き出す空とは対照に、僕の心はいつかの青空のように澄んでいた。
傘を差し、外に飛び出る。
人気のない公園でしばらく待っていると、君が現れた。
「ひ、久しぶり」
少し緊張しながら君に話し掛けた。
君はにこりと微笑んでくれた。
君と出会ったのはもう何年も前。
雨に降られた僕は傘を持っていなくて、公園の東屋に逃げ込んだ。
雨が止むのを待っていると君が現れた。すーっと、まるで幽霊のように、徐々に実体が顕になっていく。
君は振り返り、僕の姿を視界に捉えると、驚いたような表情をした後、渋い顔をした。
「……君は?」
「…………雨女……」
雨女? 出掛ける先で雨が降りやすい女の人のこと?
「……妖怪だよ」君は続けて言う。「雨を降らせる妖怪、雨女」
「妖怪? こんなかわいいのに?」
思わず声に出ていた。
だって、かわいかった。そこら辺の人よりずっと。僕の中の妖怪のイメージが化物だったから、余計にそう思った。
雨女と名乗った君は、顔を真っ赤にした。
つられて、僕も顔を赤くする。
「……こっち来て、話さない?」
僕らはお互いに自己紹介をして、それからいろんな話をした。
君は雨の日に現れる。晴れの日はぼんやりしていて、はっきりとした姿を現せられるのは、雨の日だということだった。
雨を呼ぶ妖怪だけど、最近は力が弱まり、上手く雨を呼べないと言っていた。
姿を消している時はぼんやりしていると言うけど、具体的にはどうしているのかとか、逆に僕は普段こんなことをしているよとか、好きなものや嫌いなものとか、他愛ない話もした。
いつしか雨は上がり、君の姿がまた薄れていく。
「ねぇ! これからも雨の日にはここに来るから……また会おう!」
半透明になった君は頷いた。
それから雨の日は君と会うようになった。
どうしても外せない用事がある時以外は、ほぼ一方的に君とした勝手な約束を優先した。
最近は雨が降らず、なかなか会えなかった。でも、ようやく会えた。
「もうすぐ会えなくなると思う」
君から予想外の言葉が飛び出た。心臓が早鐘を打つ。
「……な、なんで? 僕のこと嫌いになった?」
思わず尋ねてしまう。これで、本当にそうだとしたら、立ち直れないだろうに。……いや、その時は、僕の嫌な部分を聞いて、ちゃんと直そう。
しかし、違った。
「もう力がないの」君が言った。「雨が呼べない。空が言うことを聞かない。私の力は消えかけている。もう、姿を現すこともできない」
はっとして君をよく見ると、体がうっすら透けていた。嘘だ。信じたくない。
君は僕を見て、再び笑った。
「ありがとう。一緒の日々は、すごく楽しかった」
「……僕だって……」
声を絞り出す。僕の目からも雨が降る。
「笑ってよ。笑顔が好きなんだ」
君だって泣いているくせに、そんなことを言う。
でも、君がそう言うなら。
僕は笑った。君も笑った。
相も変わらず、雨がなかなか降らない。あれから余計に降らなくなったようにも感じる。
それでも、雨が降れば急いでそこへ行く。
姿は見えないけれど、きっとそこにいると信じて、僕は君に話し掛ける。
「ねぇ、今日も話そう」
雨粒が飛び跳ねる。君が笑顔で頷いた気がした。
前回と同じく。某アプリのお題『雨と君』に投稿した内容に少し手を加えたもの。これも別のところにもほぼ同じの載せたけど。
暑さとか言ってるし、アップするなら梅雨時じゃないんかいという。自分でツッコミ。
あとついでに、今更になってShort Storyに入れてた「もうどうでもいいよ。」をチラシの裏の束に移動しました。やっぱりあれはあっちだよなってずっと思ってた。あれアップしてから10年以上経ってるのにね……!
――――2025/11/23 川柳えむ
