グローリ・ワーカ   第12章:タイムリミット24時間

「マニュちゃんっ……!!」
「マー! やっと追いついたぁ……」
 肩で息をするアルトとティル。
 マニュアは背中を向けたまま、ぐしぐしな顔を手の甲で拭った。
「ちょ、ちょっと、どーしたのぉ? マー? マニュアちゃ……ん?」
「マニュちゃん!? ……泣いてたの……?」
 しばらく背中を向けたまま、深呼吸をして、くるりと2人の方を向いた。
 少しだけ赤い目。
「大丈夫だよ。ていうか、なんでこんなところに?」
 マニュアがにっこり微笑って尋ねる。
 ティルとアルトがほとんど同時に言った。
「助けに来たんだよぉっ!」
「マニュちゃん、戻ろーよ」
「早くしなきゃ! アリちゃんと男子たちが戦ってるし!」
「みんなが……」
 ぼーっとしながら呟くマニュア。
「そーだよ! だから――」
「いやだいっ!!!!」
 あっさり、きっぱりとした返答。
「「……は?」」
 おもわず、一瞬固まってしまった2人。
 冷たい風が通り過ぎてゆく。
「マアアァァァァッ!?」
「マニュちゃぁーんっっ!!??」
「だって、勝てないんだもんっ!!!!」
 マニュアが怒鳴った。
「無理だよ。勝てっこない! 魔族の力、魔族の心を持ったミリア。やっぱり私は魔族だったんだよ! 中途半端なマニュアなんかじゃダメなんだよ!」
 悔しそうな辛そうな表情で訴える。
「マニュちゃん……」
「……。ねぇ……、どう思う? この景色」
 突然、雰囲気を変えて、マニュアが2人に尋ねた。
 花畑や、青やピンクに染まった空を仰ぐ。
「え? ど、どうって……?」
「すごくキレーだよね……。こんなの、魔界じゃ見られない。魔族の住む世界には、こんなキレイな場所はない……。ね、憧れない? こんな世界に住めたら、どんなに幸せだと――そう思わない?」
 空を見上げたまま、ぽつりぽつりと落とすように問いかける。
「マー……」
 そして、きっと2人の方に向き直ると、
「私、帰らないよ! 絶っ対、帰らないからっっ!!」
「マー!!」
「いい加減にしてぇっっ!!」
 バシッ!!
 ティルとアルトの叫び声と、それと同時に両サイドから繰り広げられた平手打ちがマニュアを襲った。
「う、うぅ……。オーマイガッ……」
 マニュアが頬を押さえながら崩れ落ちる。
「なにを言ってるかっ!!」
「アリちゃんと男子をほっといて、それでいいの!? ストームたちは一生懸命戦ってるんだよ!!」
 ティルが泣きそうな表情で怒鳴りつけた。
 暗くかげった瞳でそれを見上げるマニュア。
「戦ってるその間に、マニュちゃんを連れて戻ってこいって頼まれたんだから。ね、ティーちゃん」
 アルトの言葉にティルは頷き、
「うん。それに、人間界が滅びちゃっていいの? 人間界が嫌いなの? マーは違うかもしれないけど、あの世界は私たちの故郷なんだよ!! だから――」
 その言葉に、マニュアはゆっくりと首を振って言った。
「――そんなことないよ……。私だって――」
 思い出す。人間界で自分を迎え入れてくれた家族、旅の途中で出会った町の人々、そして、どんなものよりも大切な仲間のこと――。
「――あの世界は、私の故郷でもある。そう信じてるよ」
 その瞳は、もう曇っていなかった。元気良く立ち上がり、腕をぶんぶん回しながら声を上げる。
「しっかたないナァ!! 行くヨ!!」
「マニュちゃん!!」
「マー! うん、帰ろう。仲間の元へ!」
 マニュアは最高の笑顔で言った。
「……ありがとう」
 ありがとう、こうして迎えに来てくれて。ありがとう、私の仲間たち――。