グローリ・ワーカ   第17章:カタストロフィ

「あぁ、そういえば! このヤンってやつ、人間じゃなかったっス! 魔王様のところに連れて行こうかと思ってたの、忘れてたっス! ……ま、いーっス。逆らったんだから仕方ないっス」
 キリオミが独り言を言った。
「ま、とにかく……」
 アリスのほうを振り返る。
「アリスちゃん……っスよね? 悪いけど、死んでもらうっス! あぁ……アリスちゃん。君の拳は、腹が立ったりもしたけどなかなか熱かったっス。君が人間じゃなかったら、オイラと結ばれてたかもしれないっスのに……」
 どうやら、キリオミはアリスに惚れてしまったようです。というかドMですな。
「だ、だぁれがあんたなんかと結ばれるかあぁ――――――――っ!!」
 さっきまで震えながら泣いていたアリスだったが、キリオミの言葉を聞いてぶちっと切れた。
「もう。そんなに照れなくてもいいっスのに!」
 キリオミがおかしい。
「誰が照れてるかぁ――――っ!!」
 アリスの顔がかなり怖いことになっている。
「でも、死んでも大丈夫っス。次の世に、オイラたち、結ばれようっス!」
「いーやぁ――――っっ!!!!」
 キリオミが顔を赤らめてそんな妄言を吐いているのに対し、アリスは本気で嫌がっている。
「そ、それに! あんたにはたしかミンミンさんって女の人がいたでしょーっ!?」
 アリスも意外とよく見ている。って、どこでそんなことを観察する間があったんだ。
 キリオミは答えた。
「ミンミンは――嫌いじゃなくて、どっちかってゆーと好きっス。けど、アリスちゃんも結構好きっス!」
「いやぁーっ! 私は嫌い――ッ!!」
 アリスがはっきりと叫ぶ。
 キリオミの反応は――、
「え? う、嘘っス……」
「本当っ!」
 むしろどこに好きになる要素があるというのか!
「ひ、ひどいっス! 照れなくていいっス!」
「照れてなぁい!! 本当にイヤなのっっ!!」
「そ、そんなぁっス……」
 キリオミの恋はみごと玉砕した。
「くぅ〜〜〜〜っ!! エイク アビリティ アゴニー フィア デス!」
 キリオミが死の呪法を唱える!
「キャァ――――ッ!?」
 アリスは気を失ってしまった。死の呪法で死なない辺りはさすがである。
「……あー……。両手折れてるのに、面倒っス……。でも、人間はちゃんと殺さないとっス……」
 そういえばキリオミの両手は折れっ放しだった。
「はぁ……。初恋はレモン味っス……」
 そんな甘酸っぱくもほろ苦いレベルの恋だっただろうか!?
 キリオミは遠くを見つめて甘いため息を吐くと、なんとか頑張って折れた両手を使いアリスの息の根を止めたという。

「じゃあそろそろ、戦闘再開といきますか」
 トリヤスが言った。
「そーだね」
 スリムたちも同意して、剣を手にして立ち上がった。
 どうやら、スリム&ヒナVSトリヤス戦が再び始まるようだ。
「それじゃあ、いきますよっ! フレイム エクスプロージョン!」
「え……? ち、ちょっとぉぉっ!!」
 間髪入れず、トリヤスが炎を放つ。その炎はスリムが喚く余地もなく――彼女を飲み込んだ。
「うわぁぁ…………ッッ!!!!」
「スーちゃんっ!!!!」
 あっという間に火達磨になったスリムを、泣き叫んで見ていることしかできないヒナ。
「スーちゃん! スーちゃんっっ!!!!」
 その場で震え上がりながらそれを見つめる。
 ようやく火が治まったそこには――黒くなったなにかが横たわっていた。それがなんなのかは言うまでもなかった。
「スーちゃぁんっ!!!!」
 糸が切れたように、ずっと固まっていたヒナが慌てて駆け寄る。
 体中を震わせながら、話しかけるように独り言を言った。
「スーちゃん……っ! ま、待ってて。今、助けてあげるからね……!」
 ヒナはうずくまると、マニュアが死にかけたときと同じように、魔法の詠唱を始めた。
 それに向かって、トリヤスが冷たく言い放つ。
「もう助かりませんよ。一目瞭然じゃありませんか」
 しかし、それでもヒナはやめようとしない。トリヤスはため息を吐いて、呪法を放った。
「フレイム エクスプロージョン」
 そして、動こうとしないヒナを、炎は無情にもスリムと同じように飲み込んだのだった。