グローリ・ワーカ 第17章:カタストロフィ
「…………クラベット……」
まだニールの手に掴まれてぶら下がったままのティルは、下を向いたまま涙を流していた。
そのティルを引き上げる者がいた。
「えっ……!?」
ティルは一瞬期待してしまった。それがさっきまで自分と笑いあっていた者ではないかと。
しかし、それはやはりただの夢に終わっていた。――ティルを引き上げたのは、その相手を殺した張本人だった。ティルの目に再び涙が浮かぶ。
「……あなたは、魔族の血がわずかながら流れていますね」
トンヌラがティルを引き上げながら言った。ティルはなにも答えなかった。
そして、彼女の体が完全に引き上げられたとき、ふと疑問に思ったことを口にしていた。
「……あなたが私を助けるのはなぜ? それは私に魔族の血が流れているから?」
トンヌラはその問いにさらりと答えた。
「当然です。――ただの人間なら蹴り落としていました」
物腰の柔らかなトンヌラだが、目はまったく笑っていなかった。
「そう……」
ティルは顔を伏せ、そして言った。
「私には魔族の血が流れているかもしれない。でも、心は人間だよ。――それは、アルトちゃんだって……もちろん、マーだって!!」
「…………そうですかね?」
トンヌラが薄く笑った。
「特にミリア姫は純魔族。とつぜん人を襲うようになる可能性だってあるんですよ。ミリア姫はあなたたちとは違いますからねぇ」
「そんなことないよ! マーはあなたみたいに簡単に人を殺すことなんてできない!」
ティルは顔を上げ、断言した。その言葉の中には、ニールが殺された憎しみも篭っていた。
「……まぁ、そんなことはどうでもいいですよ。じきに分かります」
トンヌラは1度遠くを見てから、再び彼女を見つめ直した。
「それよりも、あなた――ティルさんはどうするんですか?」
「どうするって……」
「魔族と一緒に人間界を手に入れるか。それとも、ここで死ぬか」
トンヌラはそう2つの選択肢をティルに与えると、ゆっくり剣を構えた。
もちろん、ティルの答えは――。
「――……魔族の仲間になったら……」
「なんです? 1日3食、おやつに昼寝付きですよ」
って、なんか違うゾー。一瞬、ティルの体がピクリと反応した気もするが。
「……魔族の仲間になったら……殺されたクラベットに申し訳ないじゃない! カオツ!!」
ティルが名前を呼ぶと、そこへ1羽の鳥のような魔物が現れた。
「キヴィット!」
カオツと呼ばれた魔物はそう一声鳴き上空を1周ほど旋回すると、今度はトンヌラ目がけて襲いかかった!
しかし。
ザシュッ……!
――トンヌラは非情にも、その魔物を剣で一瞬にして切り裂いてしまった。
「!! カオツ!」
「……なにが気に食わないんですか? あ、そうでした、言い忘れてました。時給は90Cです」
「いやだぁ!」
トンヌラが出した条件に、ティルは即答した。
「おやつは欲しいけど……っ! でも、みんなと一緒に食べるからいいの!」
とうぜんだが、彼女は魔族の仲間になる気などとうていなかった。
トンヌラは目を閉じ、小さくため息を吐くと、
「――仕方ありません。仲間になる気がないのなら……死んでもらいましょう!」
「…………! アイニ! ヴェパル! フォカロル!」
ティルは急いで強力な魔物を3体も呼び出した!
しかし、この3体ともすぐやられてしまった。――ティルにはもう成す術がない。
「……もう終わりですか?」
トンヌラはティルの頭をガシッと前髪を掻き毟るようにして鷲掴みにすると、瞳を覗き込みながら恐ろしい笑顔で尋ねた。
「私は女の人に手荒な真似をするのは嫌いなんですよ。一緒に来ますか? ティルさんはこの問いに首を縦に振ってくれればいいだけなんです」
ティルは凍り付いた。
恐怖で目を見開いたままうんともすんとも言わないティルに、トンヌラは呆れたように続けた。
「本当に、手荒な真似はしたくないんですがねぇ……」
そして次の瞬間、ティルのみぞおち目がけておもいきり膝蹴りを食らわせていた。
「………………!!」
ティルはそのままその場に倒れ込み、気を失ってしまった。
「さて、どうしましょうかねぇ……」
誰に問うでもなく、トンヌラはぽつりと困ったように呟いた。
「…………クラベット……」
まだニールの手に掴まれてぶら下がったままのティルは、下を向いたまま涙を流していた。
そのティルを引き上げる者がいた。
「えっ……!?」
ティルは一瞬期待してしまった。それがさっきまで自分と笑いあっていた者ではないかと。
しかし、それはやはりただの夢に終わっていた。――ティルを引き上げたのは、その相手を殺した張本人だった。ティルの目に再び涙が浮かぶ。
「……あなたは、魔族の血がわずかながら流れていますね」
トンヌラがティルを引き上げながら言った。ティルはなにも答えなかった。
そして、彼女の体が完全に引き上げられたとき、ふと疑問に思ったことを口にしていた。
「……あなたが私を助けるのはなぜ? それは私に魔族の血が流れているから?」
トンヌラはその問いにさらりと答えた。
「当然です。――ただの人間なら蹴り落としていました」
物腰の柔らかなトンヌラだが、目はまったく笑っていなかった。
「そう……」
ティルは顔を伏せ、そして言った。
「私には魔族の血が流れているかもしれない。でも、心は人間だよ。――それは、アルトちゃんだって……もちろん、マーだって!!」
「…………そうですかね?」
トンヌラが薄く笑った。
「特にミリア姫は純魔族。とつぜん人を襲うようになる可能性だってあるんですよ。ミリア姫はあなたたちとは違いますからねぇ」
「そんなことないよ! マーはあなたみたいに簡単に人を殺すことなんてできない!」
ティルは顔を上げ、断言した。その言葉の中には、ニールが殺された憎しみも篭っていた。
「……まぁ、そんなことはどうでもいいですよ。じきに分かります」
トンヌラは1度遠くを見てから、再び彼女を見つめ直した。
「それよりも、あなた――ティルさんはどうするんですか?」
「どうするって……」
「魔族と一緒に人間界を手に入れるか。それとも、ここで死ぬか」
トンヌラはそう2つの選択肢をティルに与えると、ゆっくり剣を構えた。
もちろん、ティルの答えは――。
「――……魔族の仲間になったら……」
「なんです? 1日3食、おやつに昼寝付きですよ」
って、なんか違うゾー。一瞬、ティルの体がピクリと反応した気もするが。
「……魔族の仲間になったら……殺されたクラベットに申し訳ないじゃない! カオツ!!」
ティルが名前を呼ぶと、そこへ1羽の鳥のような魔物が現れた。
「キヴィット!」
カオツと呼ばれた魔物はそう一声鳴き上空を1周ほど旋回すると、今度はトンヌラ目がけて襲いかかった!
しかし。
ザシュッ……!
――トンヌラは非情にも、その魔物を剣で一瞬にして切り裂いてしまった。
「!! カオツ!」
「……なにが気に食わないんですか? あ、そうでした、言い忘れてました。時給は90Cです」
「いやだぁ!」
トンヌラが出した条件に、ティルは即答した。
「おやつは欲しいけど……っ! でも、みんなと一緒に食べるからいいの!」
とうぜんだが、彼女は魔族の仲間になる気などとうていなかった。
トンヌラは目を閉じ、小さくため息を吐くと、
「――仕方ありません。仲間になる気がないのなら……死んでもらいましょう!」
「…………! アイニ! ヴェパル! フォカロル!」
ティルは急いで強力な魔物を3体も呼び出した!
しかし、この3体ともすぐやられてしまった。――ティルにはもう成す術がない。
「……もう終わりですか?」
トンヌラはティルの頭をガシッと前髪を掻き毟るようにして鷲掴みにすると、瞳を覗き込みながら恐ろしい笑顔で尋ねた。
「私は女の人に手荒な真似をするのは嫌いなんですよ。一緒に来ますか? ティルさんはこの問いに首を縦に振ってくれればいいだけなんです」
ティルは凍り付いた。
恐怖で目を見開いたままうんともすんとも言わないティルに、トンヌラは呆れたように続けた。
「本当に、手荒な真似はしたくないんですがねぇ……」
そして次の瞬間、ティルのみぞおち目がけておもいきり膝蹴りを食らわせていた。
「………………!!」
ティルはそのままその場に倒れ込み、気を失ってしまった。
「さて、どうしましょうかねぇ……」
誰に問うでもなく、トンヌラはぽつりと困ったように呟いた。