グローリ・ワーカ   第17章:カタストロフィ

 夢を見ていた。
 アルトは、勢いの激しい水の中をもがいていた。
(これは――夢というより走馬灯だな……)
 そう、これはあの日。冒険者によって引き起こされた洪水に飲まれたあのときだ。
 少し高い場所から、アリスが必死に手を伸ばしている。
 その手が届かないことを、今のアルトは知っている。
 しかしそれでも、彼女は伸びてくる手を掴もうと、再び自分の手を伸ばした。
 そして――。
 今、届かなかったはずのその手が、初めて届いた。
 アルトを掴んだその手が、ぐいっと一気に彼女の体を水の中から引き上げる。苦しみがとつぜん晴れていった。
「アルト!!」
 ――……誰かが名前を呼ぶ。
 ゆっくりと重たい瞼を開く。
「…………アリ……ちゃん――……?」
「アルト!」
 ぼやけた視界から、次第にはっきりとその声の主が姿を現した。
「――…………ストーム!!」
 そこには、死んだと思っていたストームが、横たわった彼女の顔を覗き込んでいた。――頭にはしっかりと短剣が突き刺さったままだが。
「ストーム……!」
 胸がいっぱいになる。
(刺さったままて……まぬけな格好すぎる……)
 いやしかし。今までずっと心の底に抱えてきた苦しみから、初めて救われた。――ストームが助けてくれた。
「アルト……良かった……」
 ストームは安堵して静かに笑うと、今度はそのままアルトに向かって倒れ込んだ。
「ストーム!!!!」
 アルトが慌てて起き上がる。
 ストームを横にして寝かせると、彼は薄く目を開いた。
「……情けねーな、俺……」
「ストーム……」
 えぇ、本当に。頭のてっぺんに短剣が突き刺さっているその姿はなかなかシュールだ。
「アルト……すまねぇ……。俺……おまえを……危険な目に遭わせて…………」
 アルトが首を横に振る。
「そんなこと――!」
「……俺、おまえを……少しは、守れたかな……? 俺……これからも……アルトのこと、ずっと……見守る……から――…………」
 声を絞り出すように、ストームは最期アルトにそう告げた。そして――……。
「……ストーム? ……ストーム……!? ストーム――……ッ!!」
 アルトがストームの手を力強く握る。彼女の目には大粒の涙が溜まっていた。
「…………ストーム! 私、私――……っ!! ――……!」