グローリ・ワーカ   第7章:呪法

「魔物が……!」
「魔物が火を放ったぞー!」
 宿を飛び出た8人+1匹の眼前。見える景色は、空まで赤く染めていた。
 ここから少し離れた建物がいくつか燃えているのが確認できる。
 どうやら、中心はこの町にある広場のようだ。
 急いで駆けつけると、魔物が火を放っているのが見える。火を吹いたり、呪法を使ったりしているようだ。
「これが……さっき言ってた死や破壊以外を使う呪法だよ」
「いや、マニュアちゃん。今は勉強はいいから」
 思わずぼけっと見ていたが、慌てて戦闘体勢に入る。
「ケケケ!燃やせ燃やせぇー!」
「魔物が喋ってる…!」
 その魔物は人型をしていなかったが、言葉は人間のものを使っていた。
「ってことは、高等な魔物だわ。話せるし、知能も人並にあるから、ちょっとやっかいかもしれない」
 そう言うと、先手必勝!とばかりに、マニュアはすぐさま魔物に向けて呪法を放った。
「ディサピアランス ディジーズ!」
 マニュアが手をかざした先にいた魔物が1体、一瞬にして姿を消した。
 ティルはティルで、
「町に火をつけるなんて許せない!」
 魔物――ゴーレムを呼び出した。ゴーレムとは泥でできていて、とても忠実で強力な魔物である。
「とりあえず、魔物達を頼むね!周りの人には気を付けて!それと、建物は壊さないように!その後、建物の消火を手伝って!」
 ゴーレムは頷くと、その辺にいる魔物に向かって攻撃を始めた。
 そして、ストームも……
「たぁーっ!必殺!剣3本一気投げ!」
 名のとおり、短剣…ナイフ3本を一気に魔物に投げつけた。
「キ――ッ!」
「へへっ!どんなMONだい!」
 アリスは…踊っていた。踊りで魔物を惹きつけているのだ。
 そこを、しっぽでハンマーを持ったピュウが殴りつける。見事な連携プレーだった。
 アリスも踊りながら、魔物を扇子で叩いたりしている。
「てぃ!」
「グェ!」
 妙な声を上げて倒れる魔物。
 アリスとピュウは嬉しそうに飛び跳ねた。
「やったー!」
「ピュウー!」
 そして、ニールは、
「オラオラオラ――っ!」
 素手で魔物を殴りつけ、確実に魔物にダメージを与えていく。
 アルトだって、
「アロー・レイン・シャワー!」
 空に矢を大量に放った。そして、次の瞬間には、空から雨のように水をまとった矢が魔物達に降り注いだ。
「やべっ!アルト、強ぇっ!」
 ストームが驚く。マニュアも、
「え?魔法使える…っていうか、付加できるの!?」
 アルトは笑顔で、
「もちろんですよー!」
 と答えた。
 ヤンも、
「水を司るウンディーネよ…。水の存在を此処に認め、力を我が前に示せ!ウォーター!」
 魔物を攻撃すると同時に、消火にもあたっていた。
 シリアももちろん戦っていた。
「エイク アビリティ アゴニー フィア デス」
 呪法を使って魔物を倒していく。
 ――だが、一向に敵は減らない。むしろ、増えているようにも見える。数が多過ぎる。
「……くそっ!なぁんて数…っ!」
「こ、これだけは使って欲しくなかったけど…!マニュアちゃん!歌だよ、歌!」
 ティルが覚悟を決めて言う。
「あ、そっかぁ!……でも、いいの?」
「えっ!?」
 マニュアの許可を求める言葉に、全員が驚く。
 とうとう歌が下手だということを自覚したか。
「誰がそんなこと言った!!…そうじゃなくって。皆、私が歌った後、寝ちゃうから……」
「ね、『寝ちゃう』って……」
 気絶と寝るの区別はつかないらしい。
「ピュウ〜!」
 ピュウが鳴く。
 皆がピュウの方を振り返ると、ピュウは頭の上にちょこんと何かを乗せていた。
「これは……」
 ヤンがそれを手に乗せて、まじまじと見る。
「……耳栓だ」
「ピュウピュピュピュウピュピュウゥピュウピュウ!」
「訳:この耳栓をすれば大丈夫!」
 マニュアが訳す。
「って、わざわざ耳栓すんの!?」
 自分で通訳した後、驚きの声をあげる。
「よし!これなら問題ねーな!」
 ストームも嬉しそうだ。
「シツレーな…。ま、とにかく、歌うよ!用意はいい!?」
 慌てて皆耳栓をつける。それを確認すると、マニュアは歌い出した。

 …………

 魔物をやっつけた!!
「ふぅっ。どんなMONだい!」
 ストームのセリフをパクるマニュアであった。
 ていうか、このネタ分かる人なんているのか。
「年齢バレそうだよね」
「つか、高等な魔物とか関係なかったな」
「マニュアちゃんの歌でやられちゃえばどうしようもないしね……」
「さて、後は消火活動だぞ!」
 ヤンが仕切った。
 皆が火を消そうと動き始めたその時。
「ほぅ……」
「待って!まだいるっ!」
 慌てて声の方を振り返る。…が、姿を見つけられずに辺りを見回す。
「あ、あれっ!」
 アリスが指を差す。1つの建物の屋根の上。そこに、そいつはいた。しかも、2つも影が見える。
「さすがですね。ミリア様、シリア様」
「あ、貴方は……トリヤス、キリオミ!?」
 トリヤス、キリオミと呼ばれたそいつらは、建物の上から飛び降り、皆の前に姿を現した。
 そいつらは魔物ではなく、魔族だった。魔族特有の浅黒い肌と尖った耳がはっきりと確認できる。
 1人は小太りの背の低い男、もう1人は背の高いひょろっとした男だった。
「ご機嫌麗しゅう存じます。シリア様」
 小太りな男の方がシリアに向かって恭しく頭を下げると、今度はマニュアに向かって言った。
「そして…お久しぶりですね。ミリア様。いや、今は、マニュア様…ですかね」
 そう挨拶をする。
「『様』付け……。やっぱり、ホワさんって、魔界の偉い人系?」
「かな……?」
 アリスとティルが陰でこそっと話をする。
「トリヤス……」
 マニュアはそいつをそう呼んだ。
 もう1体の――キリオミという名であろう男が言った。
「折角トリヤスが魔物を呼び続けてくれてたっス。倒されちゃって残念っスね」
「あんた達がこの黒幕ってわけだね」
 マニュアが言う。
「魔界の四天王、トリヤスとキリオミが」