エンタメクラブ   番外編9:エンタメクラブ つまらないことでも編

「『つまらないことでも』――つまらないこと……って何だと思います?」
 放課後の静かな部室で。私は目の前に座る着ぐるみ理事長に質問した。
「何それ哲学?」
 その言葉に、着ぐるみ理事長は不思議そうに尋ねる。「どしたん笑ちゃん? 話聞こうか?」
 私は首を横に振った。
「聞かなくても心読めばわかるくせに。いえ、ね、最近暇潰しにスマホでお題出してくれるアプリを使ってちょっと小説書いてるんですけど、そのお題が」
「つまらないことって?」
「『つまらないことでも』です」
 スマホを掲げて伸びをする。
「思い浮かばない〜」
 今度は机に突っ伏してしまった。
「つまらないことねぇ……ありとあらゆること、全てに楽しさを見出そうと思えばできないこともないしなぁ」
 着ぐるみ理事長が私の頭を撫でてくる。
 私はその手を振り払い、顔を少し上げ、着ぐるみ理事長の顔を見てまた質問をした。
「えー……? たとえば、興味ない分野の勉強でもですか」
「知識を得ることは楽しいよ」
「炊事洗濯掃除とか、そういったやらなきゃいけないこととかは」
「それはつまらないというより面倒臭いかなぁ。それが趣味だって人もいるし」
「面倒臭いなら結局つまらないのでは」
「始めちゃえばつまらないなんて感じてられないな」
「じゃあ意外とつまらないことってないですね」
「そうだね。人生に無駄なことはないとも言うし、つまらないこともきっとないんだよ」
「なる、ほど……? なんか違う気もするけど」
「それに、ほら。私達は今何をやってる?」
 今度は着ぐるみ理事長が笑って尋ねてきた。
「え……駄弁ってる?」
「違う! 部活だよ、部活!」
 着ぐるみ理事長は得意そうに人差し指を天に向けた。
「仮につまらないことがあったとして、そんなものはこの部活に来てしまえば関係ないのさ! だってここは『楽しいことを追求する部活』だからね!」
 ――そうだ。この部活は少し前に(着ぐるみ理事長の思い付きで)発足した、楽しいことを追求する為の部活だった(正確には『自分の趣味を追求する』、『楽しいことをする部活』って言ってたけど)。
 まさしくこのお題に相応しい。つまらないことでも楽しさを見出すのがこの部活の信条だ(と思う)。着ぐるみ理事長の――ううん。私達の手にかかれば、きっと全てが楽しいことに変わるはず。
「そうでした。一応部活やってたんでした」
「一応って何!?」
「おーっす」
 そんなやりとりをしているうちに、部室の扉が開き、森が入ってきた。
「お、来たね。我が部員」
 徐々に人が、笑顔が集まってくる。
 みんながいれば、つまらないことなんてない。もし誰かがつまらないと言うなら、一緒に楽しいことを探そう。それがエンタメクラブなんだ。
 そして私はスマホを開き、アプリを起ち上げた。