グローリ・ワーカ   第11章:自分VS自分

 玉座の後ろから現れたのは探していた人物、ストームとヤンだった。
「ちょっとちょっとぉ……もしかして……」
「あの2人、操られてるワケぇ〜……?」
 青い顔で呟くアリスとティル。
 ニールが呼びかける。
「おい! ストーム! 起きろ!」
 マニュアも、
「おーいっ! 冗談でしょ?」
 ストームは2人を睨みつけると、
「殺ス……!」
「「ゲ」」
 ストームの目は据わっている。
「魔法……!」
 予想外のストームの言葉。まさか、魔法が使えるのか!?
「そんな……!」
「ストームに魔法が使えたなんて……!」
 驚くティルたち。
「いや、むしろ、なーんかイヤな予感がするぞ」
 マニュアだけ微妙な表情だった。
 ストームは、マニュアたちに手を翳すと、
「イ○パス!!!!!!」
 ……冷たい風が吹いた。
「あーのーねー!!!! 前もパルプ○テとか言ってたけど(第5章参照)、某RPGの魔法使おうとするなーっ!!」
 マニュアのつっこみ!
 しかしストームにはきかなかった!
「魔法……」
 その言葉に反応し、ヤンがなにかを呟き始める。
「「「「「ゲ……」」」」」
「ファイアー!!!!」
 ヤンが魔法を放った! 危ない!
 ゴオオオオォォ!!
 みんな、慌てて身構えた。……しかし、熱くない。
「ん……?」
「うわっ!」
 魔王が慌てて呪法を唱えた。ヤンからの火の魔法を、呪法を使って防いだのだ。
「えぇっ!? どーゆーことっ!?」
 驚いて声を上げると、ストームが笑いながら答えた!
「へへっ! 俺たちには怪しげな催眠術なんて、効かなかったんだよ!」
「そーいうことだ」
 ヤンもいつの間にかマニュアたちの元へやって来て頷いた。
「くっ……。なぜだ! まさか……!」
 魔王が驚いた声で言った。
「まさか――こやつらも勇者の子孫!?」
「えっ……!?」
「なぁに? 勇者の子孫って!?」
「よく分かんねーけど、すげーっ!!」
 勇者の子孫たちは盛り上がっている!
「知らんのか! 勇者の子孫――かつて、天地創造の頃、地上に送られた7人の勇者がいた。その勇者のおかげで、我々魔族は地上を追われ、このような世界へと収められてしまったのだ! その勇者には神の加護とやらがついており、下手に手を出すこともできん。命に関わることであれば変に催眠術や呪法、魔法も効かん。ただし、逆に、なぜか弱い呪法とかは効いたりする。しかも、攻撃や物理攻撃は効いたりするけど、けっこう回復も早い、不便な加護がついているのだ。しかも死なないわけでもない! 判定曖昧すぎ! あ。ちなみに、神が勇者に伝えた『人々を助け 人々のために働き 秩序を守るべし』というところから、勇者たちは『グローリ・ワーカ』と呼ばれたそうだ。意味は、つまり、栄光の労働者とかそんな感じだ」
 魔王が教えてくれた。親切だった!
 しかも、加護の内容など少しへぼい。へぼいとはまた古い(1人ツッコミ)。
「へー……」
「それってチートか?」
「そういや、前に、操られてたわけではないけど、どこかの町で魔物のブレスに騙されてたこともあったしね」
「また微妙な加護だな」
「それにしても、ここで初めてタイトルの意味が出てきたよ」
「ださいタイトルだったけど、やっと……」
 反応も微妙だった。
「えぇい! おまえらは(たぶん)そんな勇者の子孫なんだぞ! もっと驚かんのかい!」
 魔王がまたツッコむ。
 魔王の勇者の説明を聞いて、驚くタイミングを逃した勇者の子孫たち(たぶん)だった。
「え、えーっと……」
「わーすごーい」
 棒読みだった!
「えぇーい! もう1度仕切りなおすぞ! 今度は知ってるフリしてちゃんと驚けぃ!」
 なぜか怒鳴る魔王に、マニュアたちは気力が抜けながらも頷くのだった。
「「「「はぁ〜い……」」」」
「律儀な魔王だなー……ι」

 ストームとヤンには催眠術が効いていなかった!
 魔王は驚いた声で言う。
「くっ……。まさか――こやつらも勇者の子孫!?」
「「「「「「ええええぇぇ――――――――っっ!!??」」」」」」
「しかも、人数もちょうど7人……って、あれ? 8人?」
 ピュウもいるので8人である。
「えーっと、まぁいい。7人くらい! まさか本当に勇者の子孫が……!」
 適当な魔王だった。
「って、私もってこと!?」
「私、少し魔族だよーっ!!」
「私もですよ……」
「俺が!? フッ……。やっぱな」
「ストーム! 俺らは勇者だ!」
「おぉー!」
「つか、私、完全に魔族だが」
 マニュアの言葉に魔王が答える。
「問題ない。勇者に選ばれたのは人間だけではなかったのだから」
「へ?」
「勇者のうち5人は人間、そして1人は魔族、1人は天使だったという話だ」
 魔王の言葉に固まる。
「え? ……ってことは――」
「俺の祖先にはどっかに人間の血が入ってるってことか」
 ヤンが言う。まぁ普段の格好が人間の割合も高いし、混じっていてもおかしくはない。
 いや、それよりも――、
「ストームって天使だったのぉぉぉぉ〜〜〜〜!?」
 なるほど。そういうことになる。
「はっはっはっ」
 ストームが笑う。答えになっていない。
「え? え!? そうなんですか!?」
 アルトが訊くと、ストームは笑いながら答えた。
「いやまぁ。完全に天使じゃなくて、やっぱりハーフっつーか正確にはクォーターなんだが」
「天使のクォーター……」
「じいちゃんの話によると、なんか人間界にいなきゃいけなかったらしいんだが、天使が周りにいなかったもんでしばらく天界に帰ってたけど、バレて、人間界に堕とされて、そこで人間と結婚したとかいうことだ」
「え!? じゃあ翼生えて飛べたりするの!?」
「わりぃが、それは無理っぽい」
「すごーい! 天使ってどんな感じ?」
「やっぱり翼がすごいぜ。俺も空飛べりゃあいいんだがなぁ」
 質問攻めのストームだった。
「そうか。それを考えると、魔族の血しか入ってない私はスゴイ。と……」
 自分で言うマニュアだった。
「そう……。みんな、僕以外が……!」
「え? ていうか、おまえ誰?」
 ヤンの言葉に、魔族の姿のピュウが笑って答える。
「ピュウだよ。君に月水晶借りっ放しだったから」
「あ! 俺の月水晶!」
 1度は盛り下がっていたが、なんか再び盛り上がった。
「…………えーいっ!!!! わしを無視するなああああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」
 魔王が怒鳴り声を上げた。
 すっかり存在を忘れられている魔王だった。
「あぁ。ごめんごめん」
「やべー。すっかり忘れてたゼ」
「なぁ」
(くっそ〜……。完璧に舐められておる……)
 魔王はイラついている!
「くそっ! こうなったら……!」
 そう言うと、笛を取り出し、吹いた。
 キイイイイィィィィィィッ……!!!!
 高い高い音が部屋に響き渡る。
「こ、これは……!」
 マニュアは耳を押さえて座り込んでしまった。
「な、何……っ!?」
「頭が……!」
 ティルやアルトも座り込む。
「なんだ?」
「俺たちは何も聴こえねーけど……」
「なぁ……」
 魔王が笑いながら言った。
「フハハ! これは魔族にしか聴こえない特殊な超音波! 説明は前話参照だ!」
 なんと手抜きな!
「そうだな――魔波とでも名付けようか!」
 センスがなかった。
「おい!! と、とにかく。この音を出す笛を作り出すことに成功したのだ! 残念だが、催眠術が効かないとはいえ、こればかりは効くようだな! さぁ! ミリアに魔族と人間のハーフども! 苦しむがよい。そして、魔族の心を覚醒させるのだ!」
「あー頭痛かった」
「本当。なんだったの、これー」
 魔王が笛を吹くのを止めて説明を始めたので、マニュアたちはもう平気に戻っていた。
「しまった!」
 間抜けな魔王だった。
 キイイイイィィィィィィッ……!!!!
 再び笛を吹き始める。
「くぅっ……!」
「はぁはぁ……。ぜーはー……」
「あ、また平気だ」
 キイイイイィィィィィィッ……!!!!
「うわぁ!」
 魔王が笛を吹く→音が鳴る→マニュアたちが辛くなる→魔王が息切れを起こす→音が止まる→マニュアたちが元に戻る→魔王が笛を吹く……(以下、エンドレス)。
「やぁッ……!」
「なに……。なんなの……!?」
 頭を押さえるマニュア、そして、ティルにアルト。
 そのとき!
「ティルッ! アルトッ!!」
 部屋に入ってくる1人の姿。
「あなたたちなら大丈夫! 負けるはずがないでしょ!?」
 それは――、
「シリア……!」
 ティルがその名を呼んだ。
 シリアは頷くと、
「……魔族としては、このまま目覚めてくれたほうがありがたいのだけど」
 ――やはり音にやられているのか、少しダークだ。
「……シリア……?」
 マニュアが辛そうな表情で振り返る。
「姉さん……。私は、まだ許してないわよ……。あなたは人間界を救うのか、それとも魔界に戻ってくるのか! 今、ここで、はっきりして!」
「うっ……!」
 マニュアが呻く。
 マニュアの心の中に、誰かの声が響いてくる。
(マニュア!!)
(……! ミリア……!)
 マニュアの様子を見て、シリアが呟いた。
「――今こそ勝負の時のはず。お姉ちゃん……!」
「「「「どーゆーことだっ!?」」」」